雨の止む日


大丈夫?と顔を覗き込まれ、慌てた。差し出された烏龍茶を一口飲み、ありがとうと苦い笑みで返す。頷く彼女の笑顔が痛い。


「宮崎さんは、戻らなくていいの」


俺のことは気にしなくていいからと告げるも、彼女は近くのベンチに座り込んでしまった。戻る気はないらしい。

しぶしぶ隣に座るものの、沈黙が続く。こんな性格だから、何だかんだでうるさい真守のほうが話しやすいなんて思ってしまうんだろうなあ……と考えていると、彼女の視線を感じて左隣を見た。


「どうかしたの」

「……ううん。小田くんは、大人だなあって思ったの」


眉を下げて笑う彼女に、大人なんかじゃないのに、と心のなかで返した。


「浅川くんに助けられちゃった」

「真守に?」

「話を、合わせてくれたでしょう。浅川くんも、小田くんも」


はっ、となった。

申し訳なさそうに「気づいてたんだ」と呟くと、ははっ、と笑われた。


「もう知ってると思うけど、小田くんが好き」

「……あの、俺」


正直に断ろうと口を開くと、「待って」と止められた。


「待って。もう少し、考えてほしいの。ちゃんと友達になってからでいいから」


頬を赤らめて言う彼女に頷くと、ぱあっと明るい笑顔に戻った。きっと人気があるだろうに、なんで俺なんかを好きになったんだろう。


「……あとね、お願いがあるの」


遠慮がちに呟く彼女に小首を傾げて尋ねると、「涼太くんって、呼びたいの」とまたも恥ずかしそうに頬を染めた。

不覚にも、どきりとしてしまったことに自分でも驚いた。


「うん、いいよ」




ーー暫く他愛もない話を繰り返した。好きな食べ物は何か。嫌いな食べ物は何か。ペットは、部活は、バイトは。


そんなことを続けていると、近くで何かが落ちる音がした。振り返ると、まいったなあ……という表情をして荷物を拾う、見覚えのあるその顔。傘なんてさしてないけど、今度は両手にビニール袋をさげた優しい顔があった。



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