十歳


季節外れの転入生は、不安と希望に満ち溢れた表情でやってきた。

眉を下げながらぎこちなく笑うその顔は愛らしくて、寒さで冷えた指先と鼻先の赤さを、俺はただじっと眺めていた。



木下裕也。


確かはじめて会話をしたのは、冬休みに入る少し手前。十二月十七日、放課後のことだったと思う。


「あっ……」


日が短くなったこの季節、さみしげな紺色の空を眺めている彼を見つけた。


「日比谷……まだ帰ってなかったの?」


俺に気付いた木下が教室の入り口を振り返ると、目を細めて笑い尋ねた。


「俺は委員会があったから。木下は?」

「うーん……。なんだか残っていたい気分だったから」


今まで一度も話したことのないクラスメイトと、案外すんなりと会話ができるのだなと安堵した。

初めて彼を見かけたあの日から変わらない、恋に似たこの感情は虚しくて、バレてしまわないようにと頻繁に目を合わせるのを避けた。


「寒いね。今年は雪、降るのかな」



彼が転校して来た理由も、教室に残る理由も、俺は何も知らなかった。聞こうともしなかった。

ただひっそりと見つめて、気付かれないように、何も思われないように、小さな恋を繰り返していたんだ。



「どうだろう……」


小さく呟いた言葉は、寒空の中へと溶けて消えた。



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