初恋のきみ
久しぶりに口を交わした彼とは当たり前のように歳月を感じ、お互いに話す話題からして自分が年をとったことを実感する。
無邪気なあの頃、この感情の重大さもよく理解せずにただただ優しい恋をしていた。
今となっては同性愛という可能性の低さや周りの視線を気にして、恋慕すらもあの頃のように素直には受け止められない。
馬鹿馬鹿しい、と意味もなく相手を見下す奇妙な『大人』を覚えていった。
その反面、今もなお自分の恋愛対象をしっかりと認知している彼は、言葉遣いや身長や性格が違えど、あの頃のままなのかもしれない。
「木下っていつも笑ってるよな。どんなときでも笑顔でいる」
苦しくても辛くても不安でも、頑張って笑顔をつくっている。
なぜかそうは言えなかった。
そんな彼が好きだった。
そう言わなかった。
「なんだよ急に。変なの」
「木下が転校してきたときのこと思い出して。あの引きつった顔」
「それは忘れて。俺だって緊張してたんだよ」
頭を抱えて俯く木下を横目に、ははっ、と笑いながら空になった食器と缶を片付けはじめた。
俺が皿を洗い出すと、当たり前のように付いてきてゴミを丁寧に片付けてくれる。
「一応お客様なんだから、ゆっくりしていればいいのに」
「一応泊めてもらうんだからいいんだよ」
「風呂にでも入れば?溺れて死なないようにな」
「そこまでさせてもらっちゃっていいの?」
「汚いままで寝られても困る」
「じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
ふと一つのベッドで寄り添い合って眠る風景を想像して、すぐにやめた。
何を期待しているのだろう。
風呂から出てきた木下をさり気なく俺のベッドに譲って、俺はソファーで眠る。それだけだ。
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