初恋のきみ


「へえ、意外と部屋綺麗だね。男の一人暮らしって、もっと汚いのかと思ってた」


駅から十五分ほど歩いたところに比較的新しいマンションが建ち並ぶ。その通りから少し外れた場所にあるのが、俺が東京に引っ越してきた大学生の頃から住んでいる馴染みのある家だ。
1Kの南向きの部屋。学生にとっては十分すぎる部屋だった。


「お腹空いてない?冷蔵庫のもの借りるけど、適当に何か作るよ」

「お前、料理できるんだ」

「お前じゃなくて木下裕也!最近よく作るんだよね」


冷蔵庫の中から水を取り出してそのまま飲むと、遠くの方で木下が上着をハンガーにかけて部屋の様子を眺めていた。


「適当に作るからお風呂にでも入っててよ。つまみ程度に作るから」


こちらにやってきた木下が背後から手を伸ばして冷蔵庫の中身を漁る。


木下ってこんな奴だったのか。今まで関わりがなかったぶん、初めて会った相手を部屋に招待しているようで新鮮だった。けれど嫌な気がしないのは、きっと彼の接し方が上手いから。
微妙なボディタッチと軽い気遣い。畏まらなくていい柔らかい雰囲気に気分が落ち着いた。


「悪いな」


短い返事をして風呂の支度を始めると、キッチンにいる彼が「お気になさらず〜」と戯けて近くにあったエプロンを着けた。

細く白い指先は、少し力を入れると今にも折れてしまいそう。



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