初恋のきみ
「違う……というか、たぶん両方いける」
「へえ、意外。全然そんなふうに見えなかったよ」
ずっとお前に片想いしてたんだから隠すに決まっているだろうと思いながらも、適当な酒を頼んで誤魔化した。
「裕くんあのね、良ちゃんは今恋人いるのよ」
「え、男?」
「違うわよ、オンナよオンナ。それなのにこんなところに来て、期待しちゃうじゃないのね〜」
「恵太さん、あんまり話さないで……」
お喋りで余計なことまで話してしまう彼だけれど、俺が初めてここに訪れたときから良くしてもらっている恩もある。
はじめはただの興味本位だった。
仕事でミスをして上司に怒られ、挙句彼女に浮気をされていたと知り、もう何もかもが嫌になってふらふらと歩いていたところを藤井恵太さんが話しかけてくれた。飲むだけでいいからと案内され、愚痴を聞いてもらうようになった今は最早常連客。
その間一度たりともこの懐かしい男に会ったことはなかったのに、なんで今になってなんだ。
「いいじゃな〜い。今はラブラブなんでしょう?ああ憎たらしい」
はいどうぞ、とグラスを差し出す彼に、本当に憎たらしいく思う表情は見当たらない。
あなたが仕事ばっかりだから悪いのよ、と俺のせいにされてから、まあ仕方なく謝り続けて復縁したものの、使い道のない金を彼女に注ぎ込んでいるようにも思える。
彼氏なんてそんなものだと言われてしまえばそれまでだけれど、今の恋愛は正直楽しくない。
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