雨の降る日
「お待たせしてすまないね。お客様が来ているのに、電話などしてしまい」
白い庄司の引き戸を静かに開け、男は帰ってきた。
「いいえ、気にしないでください」
「何か言おうとしていたみたいだけど、なにかな」
「大したことじゃないんで」
男は微笑んだまま小首を傾げ、何でも聞いていいからね、と優しい声で呟いた。
「……はい。雨も止んだし、もう帰ります」
最後の一口を豪快に頬張り、コップの中のものを飲み干した。
窓ガラスに付いた水滴はゆっくりと流れ落ち、大きな音を立てるのを止めた。
「早めに止んで、よかったね」
「はい、ありがとうございました。カレー、美味しかったです」
「うん。またおいで」
俺は何も返さないで、首だけでお辞儀をして門の外へ出た。
俺と彼がはじめて出会った、あの門の下。
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