初恋のきみ




小学四年生のときに初めて恋をした。


その年俺のクラスに転入してきた木下裕也という小柄な男の子。
色素の薄い茶髪に、はにかみながら挨拶をする彼は、純粋で無知な可愛らしい奴だった。

そんな彼に惹かれた奴は少なからずいただろう。けれどその大半が、いや俺以外が女であって、この好意が異常なんだと気づいたのもまたその瞬間。



「え……日比谷……?」

「え」



中学に上がって直ぐ、木下は一つ上の先輩と付き合ったという噂が回ってきた。
木下が一目惚れをして告白し、うまくいったそうで。

所詮初恋なんてそんなものかと思いながら、俺は頭では現状を理解しつつ、目ばかりが彼を追いかける矛盾した日々を送っていた。



そんな生活をピタリと止めることになったのは中学二年生の年明けを迎える少し手前。父親の急な転勤で家族揃って愛知に引っ越すことになったのだ。

もともと何事も中途半端で面倒臭がり屋な俺は、学校のことは家族に任せ、まあどうにかなるか、と親しい友人にだけ連絡してその地を去った。

学校に来ても挨拶を交わしたり交わさなかったり、その程度の俺と木下は、勿論それきり会うこともなかった。



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