雨が止んだなら


朧な意識の中感じるのは、暖かい日差しと小鳥の囀りだけだと思っていたのに。



温かさは日差しのせいではなく人肌で、聞こえるのは小鳥ではなく彼の心臓の音。


「あったかい……」


ボソリと呟くと思い切り抱きしめられた。驚いて見上げると、眠たそうに目を細めた彼が軽く額にキスをくれる。
恥ずかしくてグリグリと頭を彼の胸辺りに押し付けると、「くすぐったいよ」と笑われた。


「……桑原さん、今日仕事は?」

「昨日のうちに休みを貰った」

「そうだったんだ」


再び彼の顔を見上げると、素早く唇を奪われた。朝から容赦ない舌入りのディープキスだ。


「ちょっ……ま、待って桑原さんっ」


手のひらで壁を作ると不機嫌そうな表情に変わる。子供っぽい。


「怒らないでくださいよ」

「私とキスするの嫌だ?」

「その言い方はずるい」


「別にそういうわけじゃないんですよ」と言いながら今度は俺の方から口付けると、彼は目を丸くして不思議そうに見つめていた。


「おはようのキス、ですよ」


はにかんでそう告げると、桑原さんもわざとらしく音を立てて「おはよう」とキスを返してくれた。




また今日がはじまる。


あれほど望んで止まなかった、だからこそ不安で仕方なかった、彼の隣で過ごす今日がはじまる。




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