雨が止んだなら


騒がしい人声や車の音を雑音に、俺は考えもなしにスーパーへ向かって歩いていた。
まあ、困ったわねえ。と会話をしながら外へ出てくる年配の方々。桑原さんはもう帰ったのかな、そう辺りを見渡した。




「涼太くん!」



怒鳴り声と少し似たそれに驚きビクリと肩を揺らした。二度目の自分を呼ぶ声でやっと体を動かすと、桑原さんが真剣な顔をして走ってきていた。


「良かった……また逃げられてしまうかと思ったよ」

「え?」

「ついさっき、ここに来ていたでしょう。友達か誰かが君を呼ぶ声がして、見渡したら涼太くんの後ろ姿だけ見えた」


久しぶりの彼との会話に戸惑いながら、思わず「すみません」と訳もなく謝っていた。桑原さんもきょとんとしている。


「戻って来てくれたの」


目を細めて笑う表情に心を打たれた。いくら離れていても、また彼に恋をしてしまう。


「か、傘とか、何も持ってないんですよ」


馬鹿ですよね、と呟くと、彼は手に持っていた買い物袋の小さい方を俺に差し出した。


「手伝ってくれるかな。一緒に濡れて帰ろう」

「……はい」




強くなる雨の音が二人だけの空間を作ってくれているようだった。

屋根のある場所を探して進み、濡れるたびに笑って話した。
濡れちゃったね。ビショビショですね。


雨が二人を昔みたいに笑わせてくれた。




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