雨が止んだなら
「ちょっ、涼太!待てよ!」
背後からの真守の声も無視して、この胸の動悸を隠すためにひたすら走った。
気づいたときにはだいぶ進んでいて、後ろからまたバタバタと足音が響く。
「というか、置いていくなよ……」
軽く睨んだ真守が呼吸を荒くしながら呟く。
「ごめん」
情けなく笑った俺はスーパーに戻るわけにもいかず、二人で並んで真っ直ぐ進む。
この先は美容室や古ぼけたラーメン屋などが点々と並ぶくらいでほとんど何もない。隣の真守の、俺への愚痴を黙って聞いくぐらいしか、暇の潰し方が見当たらなかった。
「ーーあれ、雨?」
真守が呟くと同時に頬に冷たい何かが当たった。
次第に地面を濡らす雨粒は多くなり、ポツポツと音を立て出した。
「うわっ、強くなってきた。傘持ってないし、今日はもう帰るな」
「俺の家寄って行く?」
「いや、夕方からバイトだからいいや」
「傘くらい貸すよ」
「走って帰る!」
手で頭上を覆いながら走っていく真守の背中を見て立ち尽くした。
これからどうしようかと考えていると、買い物袋を持った主婦たちが慌ただしく帰って行く姿が目に付く。
そういえば桑原さんは、傘を持っているだろうか。
本格的な夏が訪れてから、雨は珍しかった。
猛暑の中濡らされて行くこの場所は、涼しいというよりもじめじめとした蒸し暑さが増しただけ。どことなくあの日に似ているように感じられた。
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