雨が止んだなら
ケータイの画面が午後四時六分を表示する。
本当に鉢合わせしてしまったらどうしようと身を屈めながらも、目では男の姿を探していた。
「なあ、クワハラさんってどんな人?普段着てる服装とかさ」
「なんか……服とかは地味な感じ。でも長身ですらっとしてて、腕とか細長くて、格好いいんだよ」
なんだか惚気ているようで恥ずかしくなって、俯いて下唇を噛んだ。
「それって本当に美人なの?」
「美人だよ!落ち着いてて大人の魅力があって、すごい色気のある人だよ!」
真守の疑った声色に思わず強く反論すると、彼は「はいはい」とおかしそうに笑った。
それにしてもいくら見渡しても見つからない。ここは一階に食品売り場、二階には百円ショップがあるので食品を求める主婦以外に若い客も多い。特定の誰かを探すなんて難しいものだった。
「真守、もういいよ。これじゃあ切りが無いからもう出よう」
振り向き真守を見ようとした瞬間だった。商品ケースを挟んだ前方から、懐かしい面影を見つける。
こんなにも暑い夏なのに薄手の七分袖シャツを着て、細く不健康な左手が買い物カゴを持っている。
瞬きをするたび揺れるまつ毛。薄い唇。綺麗な首筋。
ーー間違いなく、桑原さんだった。
「ッ……」
「仕方ないかあ。諦める……って、どうした?」
「い、た」
「えっ、うそ!どこどこ?涼太、どの人?!」
「馬鹿、声が大きいっ……お、俺、もう行く」
気付かれたらどうしよう。何も悪いことはしていないのに、どうしたらいいのか分からずに逃げ出した。
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