雨が止んだなら
入って手前の四人掛けの席に堂々と真守はいた。
お待たせ、と声をかけて座ると、さっさとメニューを渡して空腹を訴えられた。
「俺さっきまで地元の奴らと遊んでてさ、昼まだなんだよね。涼太は何か食べる?」
「えー、暑くてお腹空かないよ。ドリンクバーだけでいいや」
二時半のこの時間帯は人数が多く、女子中学生と思わしき団体が一番安い料理とドリンクバーを飲んで盛り上がっている。
暑いと文句を言う癖に、集まって何かをするのが好きなのか、あれくらいの年頃は。
真守がウエイトレスを呼んでステーキセットとドリンクバーを二つ頼んだ。それぞれ飲み物を取ってきて早速本題に入る。
「で、そのクワハラさんとはどうなったんだよ」
グラスの中のメロンソーダがシュワシュワと小さな泡を立てた。
「どうもなにも。一切連絡とってないし、来てないよ」
「お前、雪菜ちゃんの話聞いてたかよ?あれから何もしてねえじゃん」
「動かなきゃって分かってるけど、俺だってどうしたらいいのか分からないんだよ」
不貞腐れて答えると真守も納得いかないような微妙な表情を見せた。
ちょうど彼が頼んでいたステーキセットがきたのでそのまま話が途切れる。
沈黙の中、冷房の冷たさと客の話し声が心地よかった。
「お前はさ、よくあの雪菜ちゃんを好きにならなかったよな」
話を反らしているようで反らせていない真守が口を開く。
「あんな可愛い子なかなかいないぞ。性格も良さそうだし」
「……すごい可愛いと思うよ。良い子だし、花火をやった日のあれ、格好良かった」
もう既に半分ほど食べ終わった彼が「気移りした?」と口に肉を詰めながら言う。
「いいや、変わらない。でも完全に宮崎さんを拒めないのは、憧れているんだなってあのときに気付いた」
「憧れてる?」
「ああいう真っ直ぐ物を言う性格、良いじゃん。宮崎さんに見つめられてはっきり言われると、どうも悪いことができない」
物凄いスピードで食事を進める真守が、「憧れの人ねえ」と独り言のように呟く。
「……そのクワハラさんは、憧れとはまた違うの」
「憧れじゃ、ないよ。……やっぱり気待ち悪いよね」
「そんな事ねえよ。でも男を好きになるとか感覚が分からないから。……勘違いとか、あるのかなあって」
勘違い。
きっと一生そんなことを言われ続け、俺たちの想いは認められないのだろう。
「……あそこの、あの大きなスーパー見えるだろ」
俺が指差すと真守も横目で見つめた。
「あれがどうかしたの」
「あそこによく、桑原さんいるんだよ。食材買うときはいつもそこのスーパーで、ずっと前にもばっかり会った」
「えっ、まじで?そんなの行くしかねーじゃん!」
声を荒げた真守が残りのステーキを平らげて、水を一気に飲み干す。
「い、いやでも、今日は桑原さんの仕事が休みの日で、もし会ったりしちゃったら、」
慌てて伝えるも真守に必死さが届くわけもなく、「会うために行くんだろ!」と半ば強引に連れて行かれた。
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