雨が止んだなら


夏休みもバイトに遊びにと明け暮れて、それなりに忙しいまま終わりが近づいてきた。


桑原さんとの関わりをやめてそろそろ一ヶ月が経つ。連絡先を交換してもメールをくれたのはあの美術館の日の前日だけ。電話は一度もしないでいた。
もちろん彼の性格からして期待などしなかったけれど、もしかして今でもこんなにも彼を気にしているのは俺だけで、一方通行なのではないかと不安に思う。
もう会わないと言ったのは俺だけど、諦めないと抱き締めてくれたのは彼だ。



もし、もし仮に宮崎さんの考えに納得して再び会いに行くことがあったのなら、彼はもう一度抱き締めてくれるのだろうか。






いつもの事ながら自分の部屋で仰向けになってそう考えていると携帯電話が音を立てた。
まさか、と思い起き上がると、画面には真守の名前。


「なんだ……」


真守はあの一件以降も、頻繁に連絡をくれる。変わらずに友達でいてくれるのだ。
相手が男であろうと俺が恋をするのは珍しく、どちらかといえば前より話す話題も増えた気がする。


「もしもし?」

『よう!今お前の家の近くにいるんだけど、会える?』

「会えるけど、どうかしたの」

『別に、本当にたまたま。せっかくだから涼太ちゃんの恋バナでも聞こうかな〜って』


こうして言葉ではからかっていても、理解しようと色々聞いてくれているみたいで俺も嬉しい。
あれからどうなったのかと、花火の日から何度か連絡をくれた。まだ結論は出ていないけれど。


「分かった。今から出るよ」


起き上がりながら告げると、電話の向こうで真守が飲み物を飲んだのか喉の鳴る音が聞こえた。
遠くの方で男の子が笑い合う声。聞いただけで暑さが伝わるくらい煩い蝉の声が響いた。


『じゃあ駅前のファミレスで集合な』


駅前のファミレス。その近くにはよく桑原さんと通ったスーパーがある。今日は水曜日、美術館が休みの日。

俺は了解して直ぐに家を後にした。




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