雨が止んだなら


「……それでもあの人は、涼太くんを好きだって言ったんでしょう」


先に口を開いてくれたのは宮崎さんだった。
俺は頷くだけの返事をする。


「だったら駄目だよ涼太くん。あの人が、可哀想じゃない。私だったら傷付く」


可哀想。傷付く。


何も言えなかった。


「涼太くんに自信がなくなっちゃうの何と無く分かるなあ。きっと私でも、そんなの身を引くしかないって思っちゃう」


「でも」と声を荒げた。


「でも、それは涼太くんの立場だから。……あの人の立場だったら、そんな理由でさよならだなんて、絶対に嫌」

「どうして」

「好きになれなくて付き合わないなら仕方がないけど、好きなのに付き合えないだなんて苦しいよ。……私も涼太くんが好きだから、その人の気持ちが少しだけ分かる気がするの」


情けなく、照れたように眉を下げて笑う彼女。


「で、でも、」

「涼太くんはその人の為に、奥さんの為に、って思ってるかもしれないけど、それは違う気がする。本当は自分が臆病なだけなんじゃないのかな。それを周りのせいにしちゃ駄目だよ」





彼女の、宮崎さんの真の通った感情に惹かれる。
濁りない目で見つめてそう訴えてくる。





ああ、そうか。
やっと気付いて頭が真っ白になった。



「あの人の……クワハラさんの気持ちはどうするの。奥さんに同情して最もな理由をつけて、それでさよならして涼太くんは良かったのかもしれない。でもあの人にはもう涼太くんしかいないんだよ。ひとりぼっちで葛藤して、勇気を出して涼太くんに気持ちを伝えたのに……クワハラさんの気持ちは無かったことにするするの」

「そん、な……違っ」

「涼太くんの優しいところ凄い好きだけど、そんな優しさじゃあ傷つけることしかできないよ」


言い放った彼女がまた砂をかいて海辺へと走って行った。
俺と真守は静寂の中、暗闇に取り残される。




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