雨が止んだなら
同じく石段に腰掛けた宮崎さんが、本当に良いの?というようにこちらを伺ってくる。
俺は遠くではしゃぐ友人たちの声を雑音に、焦げて黒ずんだ花火の先をじっと見つめていた。
「……私も、たいした話じゃないの。あれからどうなったのかなあ、って、少し気になって」
気まずそうに重たい口を開いた彼女が、膝の上で自分の手を擦り合わせている。
「余計なお世話だったらごめんね」
「ううん。宮崎さんにはちゃんと言わないと、って思ってたから」
端から宮崎さん、俺、真守と三人並んでいる。
どうも馴染めない真守がそわそわとしているのは、表情や仕種を見ないでも気付けた。
「あの、次の日ーー桑原さんっていう人なんだけど、桑原さんに、気持ち伝えたよ。それで桑原さんも、俺の気持ちに応えてくれた」
彼女の白く細い手のひらに、ぎゅっと力が込められた。
「でも恋人同士になるとか、そういうのはしなかった。というか、もう会わない」
「……どうして?」
長いまつ毛が揺れて、大きな瞳がこちらを向いた。
月明かりに当てられて、綺麗に光る。
「あの人ね、奥さんを亡くしてるんだ。すごく可愛らしい人で、幸せそうな……自信が、ないんだ。桑原さんの、隣にいる自信」
左隣の真守が、驚いたように「えっ」と声を発する。
「奥さんって……」
軽蔑されるのか。そう怖くなって、顔は見れなかった。
自分から覚悟を決めたのに、中途半端な自信で真守を巻き込んだ。
「ごめん、真守。俺が好きな人、男なんだ」
あえて黙っていたのか、言葉さえ出なかったのかは分からない。それでも自分が巻いた種なのだから、と掠れた声で続ける。
「他人の事情をペラペラと話せないから詳しくは言えないんだけど、過去に色々ある人で。奥さんとの思い出とか聞かせてもらって、奥さんの素敵な部分を俺も知っちゃった。……何も悪くない人から、奥さんから、桑原さんを奪えないよ」
長い長い沈黙が続いた。
この話をした後どうしようかと、何も考えていなかったので今更不安になった。
真守に気持ち悪いと言われて、また宮崎さんを悲しませて、一人寂しく電車に乗って帰るのだろう。
夏休みが明けて、その後はどうしよう。
どうしよう。
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