雨が止んだなら


玄関を開けた途端に来るもわっとした空気が苦手だ。
アスファルトがじめじめとしていて、見るからに暑そうだ。幼い頃、裸足で駆け回って軽く火傷を今でも覚えている。

気持ちの問題からかいつも通っている歩き慣れた道が、初めて通る場所のように遠く感じる。この気だるさを抱えたまま、鞄に財布とケータイだけを入れて駅まで向かうと、真守が既にペットボトルのポカリスエットを飲んで待っていた。


「おせーぞ」


俺を見つけると軽く睨んでさっさと改札に向かってしまった。俺も続けて後を追う。


「まだ夏休み始まったばっかりだってのに、この暑さは何なんだろうな。ああ、かき氷食べたい」


独り言のように話し始める真守に間を置いて返事をした。


「海の家ってまだやってないのかな。かき氷、あったら買う?」

「俺ブルーハワイがいい」


パタパタと手で仰いでいる彼を真似してみても、生暖かい風しかやって来ない。







二、三分した頃に電車を知らせるアナウンスが流れた。入るとさすが休みなだけあって人が多く、親子で並ぶ人や、プールに行くのか用具を持った女の子たちで賑わっていた。
俺たちはちょうど空いた真ん中の席に並んで座る。



「……で、どうして断ったんだよ」


来た、と思い一度唾を飲み「どうしても何も……」と軽くあしらう。


「まあ前から好きじゃないって言ってたもんな、涼太」


話の流れからしてどのような理由で断ったのかは知らされていないようだ。
ほっ、と安堵の息を漏らしつつ、真守の性格からして気になったことはとことん追求する。さて、どうやって誤魔化そうか。


「でも勿体無いよなー、あんな可愛い子。……あ、そういえば好きな奴いるんだっけ。その子と付き合ったとか?」

「付き合っては………いない」

「なにそれ、どういう意味」

「宮崎さんにはちゃんと好きな人がいるから、って断った。その人にも……告白はした」


ガタン、ゴトンと揺られながら外の景色を眺めていると、遠くの方に海が見えた。水面が反射してキラキラ光る。


「振られたの?」


カモメが一羽鳴いた。続けて返事をするように騒がしくなる。


「振られてないよ。でも付き合わなかったんだ」

「はあ?意味分からない」

「色々訳ありの人なんだよ」


それだけ告げると察したのか、真守も黙って外を眺めだした。



一時間ほど座り込んでいると窓外の景色だけでなく人の入れ替わりも激しい。
ちょうど今入ってきた五歳くらいの子供を連れた親子が、斜め前の席に座った。体ごと窓に向けて「わー!海だー!」と目を輝かせる息子に、母親もそうねえ、と微笑ましく海を眺めた。




- 60 -


[ TOP ]

[*前] | [次#]
ページ:


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -