雨が止んだなら
「今日は紫外線が強く、今年一番の暑さになるでしょう。日焼け止めや日傘をさしてお出かけください」
朝、見慣れたお姉さんが言っていたとおり、室内は蒸風呂のように暑苦しく、蝉はミンミンと耳障りな声を出して鳴いていた。
休み前のテストを無事に終え、あれから平凡な日々を繰り返す。
夏休みに入ったからといって特別騒ぐわけでもなく、バイトがない日はこうして一日中部屋に引きこもっていることが多かった。
「あっつ……」
脱力感と共に吐き出された声と同時に、ケータイが音を立てる。
電話だ。画面に表示された真守という字を見て寝転がりながら電話をとった。
『お前出るのおせーよ!』
もしもし、と声をかける前に怒鳴り声を聞き、暑さへの苛立ちか真守への苛立ちか分からないままひとつため息を漏らす。
「なんだよ急に」
『いやぁ、あのさ、海行かない?』
「海?いつ?」
『今日だよ今日!駅前で待ち合わせてさ、去年みたいに花火買ってやろうぜ』
ふと桑原さんとしたあの話を思い出して言葉を失う。
せっかくこの猛暑のおかげで考えることを止めれていたのに、いつも真守は余計だ。
「……というか急だな」
『どうせ暇だろ?中村と熊谷も誘って、また南高校の子達とさ』
「南高校……」
あれから宮崎雪菜には会っていない。そもそも学校も違うし自宅も遠いので、真守が集合をかけなければなかなか会う機会もないのだ。
「真守も懲りないよな。南高校はもう可愛い子いなかったんじゃないの」
『うるせー!このへんの女子校って南高校くらいだから、他は全部彼氏持ちばっかりなんだよ!』
ヤケクソになって言い散らす彼に受話器越しに笑ってやった。
『だから涼太も来いよな』
「うーん……でも宮崎さんも来るでしょう」
『尚更来いよ。実は先に南高校の子達と連絡とって、雪菜ちゃんにも事情は聞いた。雪菜ちゃん、お前と話したがってるからさ』
「えっ」
事情を聞いたってどこまで?俺が宮崎さんに告白されたこと?それを俺が断ったこと?
俺が、男が好きだということ?
気になったけれどさすがに聞くことができなくて、驚きの声を漏らして終わった。
『今から駅で待ち合わせな』
じゃあなと勝手に切れたケータイの向こうで、プー、プー、と音が鳴る。俺が意を決して支度をはじめたのは、十分経った後だった。
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