雨が降ったなら
食事も済ませお風呂も二人で逆上せるくらいのんびりと入って寛いでいると、十一時を迎える長い針が、カチッという音を立てる。
何かを知らせるような、長い沈黙。
「……もう、行きますね」
「送るよ」
「男、ですから」
「送らせて」
眉を下げて笑う彼に、俺も小さく笑って頷いた。
あの大きな門を潜って今一度彼の家を見る。お城みたいな昔ながらの寂しい家。物音一つしない静かすぎるこの家を、何度恐ろしいと思っただろう。
雨粒が落ちる音。
違和感のある湿気の匂い。
窓ガラスに当たって流れる一つの線。
水を切る車のエンジン音。
ポチャポチャと鳴らしながら水たまりを踏む足元。
濡れた髪。
それに触れる大きな手。
君がいてくれたら嬉しい、そう困ったように笑う彼。
ーー俺たちは、雨の日にだけ恋を知る。
二人は惹かれ会い、恋に落ちる。
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