雨が降ったなら


朝起きて愛する人が隣にいる幸福を、俺は一度味わったことある。


初めて彼の家に泊まったあの日、俺は既に彼に惹かれていた。


昨晩、月を見たあの窓から、心地いい日差しが入り込んでいた。







「……桑原、さん」


独り言でも言うようなか細い声で呟く。今が何時なのかも分からない。近所で子供が騒ぐ声が聞こえる。


「涼太くん……起きた?」


自分の手がまだ彼に握られたまま眠っていることに今更気が付いた。見上げると優しくこちらを向いて微笑んでいて、今にもトクトクと、桑原さんの心臓の音が響きそう。


また泣き出してしまいそうだった。


「今日はどうしようか。取り敢えず起きて朝食にする?それとも、まだのんびり眠っている?」


あ、そうだ。と思い立ったように呟くと、左手で軽く顎を彼の方へ向かされる。ーーそして、乾いた唇を舐められながらのキス。


「おはようのキスだよ」


彼の優しさが、また俺の胸を締め付けた。


「桑原さん……俺、」


言いかけたと同時に「昨日の」という桑原さんの言葉で遮られた。


「昨日の、あの話は今日はなしにしよう」

「……はい」


返事と一緒に手のひらに力を込めると、桑原さんも強く握り返してくれた。




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