雨が止んだ日


手を取られながら布団に倒れ込むと、彼は今一度目で問うた。ーーいい?


「……桑原、さん」


返事の代わりに掠れた声でそう呼ぶと、嬉しいような困ったようなしわくちゃの笑顔を向けて俺の服に手をかける。少し、冷たい手。


電気も付けないこの部屋で、向かいの窓から月明かりが覗く。いつの間にこんな暗くなっていたのだろう。




「男とヤるのは初めて?」

「はい……桑原さんは?」

「私も。涼太くんが初めて。手探りでごめんね」


服を全て脱がされると、そのまま体を撫でるように触られた。


「へーき、です」


思わず声が上ずる。


「……気持ち悪かったら直ぐに言ってね」


桑原さんの手が触れているというだけでこの上ない気持ちでいっぱいなのに、腫れ物を扱うような優しい手付きが胸に染みる。


カラダの所々へのキスと同時に触れられる乳頭は、はじめはくすぐったいだけの変な気分だったものの、次第に吐息のような小さな声が漏れはじめていた。


「あっ……ン、くすぐったい……」


目線だけを向けて微笑んだ彼が、俺の乳頭をそのまま口の中に含む。生暖かい舌の感触と彼の唾液が妙な気分にさせてより俺を敏感にさせた。舌の表面で胸の突起を転がし弄ぶような感覚に、俺の乳頭はもう自分でも分かるくらいプツリと浮き出てきている。

それだけじゃない。すでに反応している下半身が、桑原さんの腹部に当たって擦れる。


恥ずかしくて苦しくて、でも気持ちがよくってどうにかなってしまいそうだった。


「やっ……ぁ、そこばっかりっ」

「涼太くん、可愛い」

「んんっ……!」


ちぅ、と吸い上げられて腰が浮いた。俺のものはだらしがなく我慢汁をタラタラと流して物欲しそうにヒクつかせている。



ちょうどいい具合に気持ちが高ぶってきた頃、彼は親指と人差し指で輪を作り、俺のものを上下に動かすと同時に左手で後蕾に触れた。



「ンッ……っ」


冷たい感覚に驚いて思わず声が漏れた。ぬるぬるとしたローションを付けた指が、入口の数センチのところを行ったり来たりしている。


「痛い?」

「驚いた、だけ、」

「先ずは一本入れて見るからね」


緊張と羞恥のせいで近くにあった枕で顔を隠した。桑原さんの細長い指が、徐々に奥へ奥へと入っているのが分かる。

慣れてきたと思うとゆっくりと出し入れをし、更に二本、三本と増える。


「キツくない?」

「ん」


圧迫感と違和感は凄いけれど、既に彼のものを欲していた。ここに、彼のものが入るのだと想像しただけで身体が火照る。


「んんっ……ぁ、やっ」


ぐちゃぐちゃと乱暴に掻き回しながら何かを探るような手付きに腰がビクンッと跳ね上がった。


「前立腺っていうのがあるみたいまでね、そこを刺激すると気持ちが良いらしいから」


「あ、ぁぁんっ……や、だッ」

「……やめるかい?」


心配した声色で動きを止める桑原さんに、物欲しそうにふるふると首を振った。


「……涼太くん、顔見せて」


耳元でそっと呟いた桑原さんが、俺が再び首を振ると意地悪に「どうして?」と笑った。


「……顔、真っ赤、だからっ……」


止められた指の感覚を感じつつ、体内の火照りがじんわりと額に染みた。

男であるプライドと裏腹に、小さな穴が彼の指をぎゅうぎゅうと締め付ける。


「……好きな人とヤってるから」

「そんな可愛いこと言わないで。私も余裕ないから」

「その割りには、冷静ですね」

「冷静ぶってるの」


ゆっくりと三本の指を引き抜くと片手でゴムを広げて自身にはめた。手慣れた手付きに少し胸が騒つく。


「もう挿れるね」


チラリと覗いた隙に枕を奪われ、俺の視界一面に彼が広がった。






今日、約束の時間より早く来た、二人で向かい合ってパスタを食べた、美術館で過去を教えてくれた、満員電車、ずっと揺られながら俺を見つめていた、あの見慣れた彼。



やっと、やっと、好きだって伝えられた。





それだけでもう十分だった。





「ッ……桑原さん……っ」


熱く指より遥かに太い彼のものが、少し柔らかくなった蕾にズルズルと入り込む。俺は力いっぱい彼を抱き締め、幾度も幾度も名前を呼んだ。


「涼太くん、大丈夫?痛くないかい」

「はぁっ……大丈夫、ですっ……」

「ん。……好きだよ、涼太くん。愛してる」

「お、れもッ……桑原さ、あい、してる……っ」



爪痕が残るんじゃないかっていうくらい抱き締めて、彼もまた互いの肌の隙間がなくなるくらい抱き締めてくれた。


俺の中に桑原さんが入っている。決して報われることのなかった二人が、今一つになっている。


この上ないくらい幸せで、幸福に満ちていて、どこか少し、虚しかった。




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