雨が止んだ日


くだらない話を繰り返して、十一時七分に目的地へと辿り着いた。
人が多く行き来する、出入り口がたくさんある大きな駅だ。



「お腹は空いてる?」

「え?」

「お昼時になると混むから、ふらふらして良いところを探そう」

「美術館は……」

「六時までやっているし、そんな長くいても飽きちゃうでしょう」


飽きちゃう。なんだかチクリとして、飽きることなんてないですよ、と反論してやりたかった。でもきっとどれだけ価値のある絵を観ても、素人の俺は凄いしか出てこないのだろう。






大通りを歩いていると看板がいくつか見えた。
中華、パスタ、寿司、インドカレー。


「何が食べたい?」

「俺、あんまり好き嫌いないからどこでも。桑原さんは?」

「うーん……パスタにしよう。ミートスパゲティが食べたい」


意外な言葉に驚きつつも、頷いてお店へ向かって歩いた。看板は二階を示していて、細い階段を登るとお店が見えた。場所はいまいちだけど可愛らしい店内。
桑原さんの言ったとおりまだ客数は少なく、窓側の景色が見れる席をとることができた。

ミートスパゲティと俺はカルボナーラを頼んで向かい合って食べた。
場所は違えど、また二人での、いただきます。


「涼太くんは美術館は初めてかい」

「学校行事で、中学生のときと高校一年生のときの二回、行ったことがあります」

「そうか。それくらいしか行く機会もないよね。普段は何をして遊んでいるの」

「カラオケとか。あとはたまにダーツやボーリングです」

「ダーツなんてやるの?すごいね」


でも俺、ヘタクソなんですよ。と笑うと、彼も一緒に笑ってくれた。


「桑原さんはインドア派なんですか?それとも仕事が忙しいとか」


桑原さんがスプーンとフォークを使って上品にパスタを一口食べた。俺も真似してスプーンを使うけど、全然上手くいかない。


「仕事は水曜日が定休日。日曜日は交代して出るんだよ。普段の平日も、代わり番こで一日だけ休みが貰えたり貰えなかったり」

「今日は……」

「一緒に働いている人の代わりに、私が平日に入ったんだ。そしたら今日、休みをくれた」


土曜日は混むのにね、と桑原さんが続ける。


「仕事柄インドアなのかもしれない。でもどこかへ行くのは好きだよ」


桑原さんはそっと俺の手元に手を伸ばすと、不恰好に握られたスプーンを取り上げた。


「高級レストランなわけじゃないんだ。涼太くんの好きなように食べなさい」

「……はい」


ああ、恥ずかしい。




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