雨が止んだ日


十時に駅で待ち合わせ。
帰りに涼太くんの家に寄るから、お泊まり用具は置いてきていいです。


昨晩そうメールが届いたので、八時半に目覚ましをかけた。先に身支度を済ませて普段よりお洒落にして、余計にお金を財布に詰めてようやく朝食をとった。
待ち合わせの駅に着いたのは、約束の二十三分前だった。




「また早すぎた」


辺りを見回しても人は疎らだった。通勤ラッシュは過ぎたけれど、店が開くまでは少し時間のある微妙な時間。


「……デート、なのかな、これって」


昨日の今日で素直に喜べない自分がいる。こんな大切な日なのに。


「はやいね、涼太くん」

「わぁっ!」


突然のことにだらしのない声が溢れた。桑原さんもくすくす笑ってる。


「く、桑原さんもはやいですね」

「楽しみだったから」


さらりと言うところが格好いい。嬉し過ぎて顔がにやけないように、わざと口を尖らせた。


「行こうか。乗り継いで、一時間くらいかかってしまうから」

「結構長いんですね」

「仕方ないよ。ここら辺は美術館もないから」





電車に乗ってすぐの座席に二人で並んで腰掛けた。窓から伝わる暖かい日差しに夏を感じる。気持ちがいい。

この車両にはスーツ姿の男性が一人と、夫婦と思われる老人が二組しかいなかった。


「桑原さん、いつもと違うファッションなんですね」

「仕事以外で出かけることをずいぶんとしていなかったから、お洒落かどうかは分からないけどね」


苦い笑みを浮かべる彼に、素直に「かっこいいですよ」と告げる。


ふと気付く。
昨日、宮崎さんが俺に言った「かっこいい」と、きっと俺は同じ意味合いで使っている。


「本当かい?よかった」


照れ臭そうに首筋を掻いて今一度彼は正面を向き直した。


カーキ色のシャツに渋い緑色のカーディガンを紳士に来こなした姿は、きっと誰でも見惚れてしまう。
高い背、長い手、ゴツゴツした指、綺麗な鎖骨。同じ男なのにこんなにも違う。


……本当に、苦しいくらい、格好いい。




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