雨が降った日


「それって雪菜ちゃんのこと?」

「だから何で宮崎さんがでてくるんだよ。あの子とは何もないって」

「じゃあ新しい誰か、好きな人ができたんだ?」


返事に詰まらせていると、辛気臭いな!と怒られた。


「そんな感じの人だよ」

「へえ〜。涼太にもいよいよ春がやってきたか。で、いつ付き合ったんだよ?相手は誰?」


お節介な真守に言うんじゃなかったと後悔してももう手遅れだ。
「付き合ってなんかいない」とだけ返すと、すぐさま「どんな子?」と探りを入れられた。


「年上で……優しくて、美人な感じの人」


男だなんてさすがに言えないから誤魔化していると、怪しそうに見つめられた。


「涼太に年上の趣味があったなんて初耳だなあ。写真ないのかよ」

「ないよ。別に誰を好きになろうと勝手だろ」

「あ!今日いつもより早く来てたもんな。まさか朝帰りかよ?!」

「そんなんじゃないって!あの人は、俺が片想いしてるだけで、そういう関係じゃない」


そういう、汚い関係じゃない。もっともっと、今にも壊れちゃいそうな儚いもの。


「でも優しさが凶器だなんて、相当悩まされてるんじゃないのか」

「そう思う?」


自分でもそう実感したというように苦笑を浮かべると、真守は窓の外を見つめて溜め息混じりに呟いた。

じめじめと蒸し暑く、吹く風も生温かい。どこか遠くで虫の鳴く声が聞こえる。


「俺は楽しい恋愛しかしてないからなあ。苦しいって感じたら、すぐに諦めちまう」

「諦める?」

「なんか嫌じゃん。本気で好きになるのって、怖いし。傷付くのって嫌だから、今は楽しいだけでいいかなって」

「……若いなあ」


老人みたいな言い方をすると二人して声を出して笑った。





俺たちはいつだって臆病で、嫌なことがあれば逃げることだってできる。まだまだ未来は長いから、と言い訳をして、楽しいものだけ選んで笑っていればいいのだ。
恋人と結婚をしたいと思うことがあっても、この人と結婚したいと思って付き合うことはまずないだろう。
それが子供の唯一の逃げ道だとしても、それじゃあいつまで経っても桑原さんに追い付けない。


子供でなんていたくない。




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