雨が降った日


カーテンを開ける音と、眩しすぎない光を感じて薄っすらと目が開いた。




「おはよう。よく寝れたかい」


朦朧とする意識の中、愛おしい彼の声で飛び起きた。


「ああ、慌てなくて大丈夫だよ。まだ五時半だから」


昨晩、いくつも部屋があるにも拘らず同じ空間で二枚の布団を引いて眠りについた。それこそ緊張してなかなか寝付けなかったけれど、桑原さんの吐息と、触れていないのに伝わる彼の温かさを感じて気持ち良く夢に落ちた。



「いつもこんな時間なんですか?早いですね」


重い瞼を擦りながら告げると、眩しいくらいの笑顔で「そうかい?」と彼が振り向いた。
……幸せだ。


「朝ごはんはできているから、顔を洗ってきなさい」

「えっ……あ、はい!」





冷たい水で丁寧に顔を洗ってから、鏡を見て寝癖を整えた。それでも跳ねて格好悪いそれに苦戦していると、彼がやってきて触れて笑う。


「可愛いからいいよ、そのままで」


一気に熱を持つ顔を俯かせて誤魔化して、「男に可愛いなんて、ひどい」と少し口を尖らせた。


「ははっ、お味噌汁が冷めちゃうから急いで、涼太くん」


桑原さんは今日も格好いい。




ハムエッグとご飯とお味噌汁を前に、三度目の二人のいただきますをした。


「和食なのに洋食ですね」

「細かいことは気にしないの」


桑原さんが笑うから俺も笑った。……よかった、普通に話せてる。


「美味しいかい」

「はい、美味しいです」

「よかった。……あのね涼太くん、美術館なんだけど、来週の土曜日なんてどうかな」

「来週の土曜ですか?」

「ああ。普段は仕事なんだけど、たまたま休みでね。日曜も休みで二連休だから、そのまま泊りに来たらいい」


彼はまた、俺を泊まらせてくれるのか。不快な気分にしかさせてあげられなかったのに、次をくれるのか。


「桑原さんがいいなら、そうしたいです」

「じゃあ決まりだね」










優しさはときどき凶器にも変わる。そう真守に言うと不思議そうに見つめられた。


良かれと思ってしてきた優しさはいつしか小さな棘のようにズキズキと相手を苦しめる。あまりにも小さいから気づかないで放っておくと、それは徐々に痛みを増し、取ろうと思ってもなかなか取れないでいつまでも付きまとう。そんな厄介な存在になるんだ。




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