雨が止んだその日


沈黙が続いていると彼が話題を変えてくれた。学校は楽しいのか。部活には入っているのか。休日は何をしているのか。

どれも明るい話題のはずなのに、頭の片隅には悲しそうに笑う桑原さんがいた。





「あ、もう八時になるね」

「本当だ……それじゃあ俺、帰ります」


買ってしまったゼリーはどうしよう。自分用にみかんゼリーと、桑原さん用にミックスゼリーを冷蔵庫にこっそり入れたままだ。まあ気付いたときに食べておいてくれるだろう。


「帰るのかい」

「はい。明日も学校なので」

「泊まっていったらどうだい。学校にも近いし、そのまま行ったらいい」

「えっ!」


泊まるって、桑原さんの家に?泊まる、泊まる、泊まる……と、ぐるぐると考えていると顔が緩んでにやけそうになった。

どうしよう、嬉しい。


「買ってくれたゼリーも、お風呂から上がったら二人で食べよう」

「……気づいてたんですか」

「見てたからね」


みてた。

あまり期待させないで。


「……泊めてくれますか」

「ああ、いいよ。ご両親にちゃんと連絡を入れたらね」

「ありがとうございますっ……」







お先にどうぞと言われたので遠慮しつつも先にお風呂を借りた。急いで、というよりも、緊張のあまり十分程度で出て来てしまった。
普段香る桑原さんの匂い。シャンプー、リンス、ボディーソープ。自分から漂う空気が変な感じ。


「あれ、もう上がったのかい」

「あ、はいっ。ありがとうございました」


バッと頭を下げると水滴が零れた。ぽつ、ぽつ、という小さな音。


「ドライヤーでちゃんと髪を乾かしなさい。風邪を引いたら大変だ」

「は、い……」


風呂上りのせいだと誤魔化した、体の火照り。顔があつい。


「直ぐに入ってくるから、出たら食べようね。ゼリー」


頷くだけの返事をしたら、桑原さんが微かに笑った。鼻辺りに吐息を感じてどきりとした。




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