雨が止んだその日


二人向かい合っていただきますをするのは、これが二度目だった。


「美味しそうだね」

「茹ですぎましたけど」


綺麗に盛り付けられたミートスパゲティを眺めて、笑い合って手を合わせる。食べる合図をかけつつも彼が食べるのを待っていた。味を失敗したわけではないのだから、少しばかり食感が違うだけで……。妙に緊張しながら桑原さんを見つめていると、優しく笑んで「美味しいよ」と返してくれた。


「ほ、本当ですか」

「ああ、本当さ」


彼のこぼれんばかりの笑顔に、胸がきゅうっと締め付けられた。

なんでこんなにも桑原さんのことが好きなんだろう。


「……よかった」


俺も安堵の笑みを見せてひとくちぶんフォークに巻きつける。美味しいね、美味しいね、と繰り返し呟く桑原さんに照れながらも頷いた。



おいしい。
あなたと一緒にいられることが、嬉しい。







食べ終えて二人して食器洗いをしているときも、「久しぶりで本当に美味しかった」「ミートソースの味が丁度良かった」「思わずおかわりをしてしまった」なんて感想を言い続けるから、あまりの恥ずかしさにただ笑い返すことしかできなかった。


「大袈裟ですよ」


俺は桑原さんの作るカレーライスが食べたい。


「嘘じゃないよ。本当に思ったんだよ。また教えて欲しいな」

「俺でよければいつでも教えますよ」


さり気なく“次”を約束してみても、頼もしいなあ、よろしくね。の一言で消えてしまう。




「桑原さんは、料理が得意な女性がタイプですか」


意地悪に聞くと、変わらない表情で「どうして?」と返された。


「なんとなくです。桑原さんがカレーライスしか作れないから、奥さんは料理が得意だったのかな、って」

「それだけで選んでいたわけじゃないよ」

「……はい」


知ってます。そんなの。
料理が作れるからって、良い気になるものじゃない。少しだけ親しくなったからって、誰かを越えられる存在じゃない。


知ってる。それくらい、知ってる。



悔しい。



「涼太くんのタイプは、笑顔が可愛くて優しい子?」

「どうしてですか」

「そんな印象を持ったからだよ」


そう言われて思い付くのは、 栗色の髪の、小動物みたいな背丈の、はにかみながらこちらを見つめる、宮崎雪菜。


「宮崎さんとは付き合っていません」

「宮崎さんっていうんだ」


違うのに。


「女の子らしくて可愛らしい、いいこだったね」


俺が好きなのは、彼女じゃないのに。



「……俺のタイプは、年上で優しくて、寂しそうに笑う人です」

「そうかい。……私の好きな人は、不器用だけど真っ直ぐな子だよ」


そんな人、知らない。



「桑原さんに愛された奥さんは、幸せなんでしょうね」




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