雨が止んだその日


二度目の雨が降ったあの日、彼は帰り際に言った。


「またおいで」


やっぱり返事ができずにいると、「涼太くん。もう呼んでしまっているけど、これからもそう呼んでいいかな」と目を細めて微笑した。


嬉しくて恥ずかしくて苦しくて、小さく頷くだけの返事をした。


「私のことも好きに呼んでくれて構わないからね。気を付けてお帰り」



時刻は九時を回ろうとしていた。今日も何も聞けずに家に帰るのかな。悔しいな。男は色んなことを教えてくれたけど、俺は本当に知りたいことを聞けないでいる。少し距離が近付いたように見えて、結局は遠いまま。






奥さんとはどんな恋をしたんですか。


今はどんな気持ちでいるんですか。


これからまた誰かを愛すのですか。





俺はあなたを、好きでいていいですか。






口に出してしまいたいことは山ほどあったけれど、彼にとって俺の言葉は軽すぎる。死という事実が彼に付き纏う限り、俺の想いは幼すぎる。


「涼太くん?どうかしたの」

「……はい。はい、大丈夫です」


大丈夫です。帰ります。


「あの、」


帰りたくないな。もっと話がしたいな。


「桑原さんって、呼んでもいいですか」


あの味の、カレーライスが食べたいな。


「うん、いいよ」









好きだって、言いたいな。



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