交差して出会う



気付いた時には幸村さまを突き返していた。今、出来るならば何も考えたくなくて。なんで幸村さまが、あんなことをしたのかさっぱり分からないし、理解できない。


「あ、あの…幸、村さま」
「…すまない、最低なことをしてしまったでござる」
「いえ、あの、そうじゃ、なくって…」


そうじゃないなら、なんで私は幸村さまを突き放したの?大好きな幸村さまから好きだと言ってもらえた、こんなに幸せなことなんて他にはないはず。そう思ってるはずなのに体は反していて突き返した腕はまだ幸村さまの胸にある。それとともに涙が溢れてきた。いつから私の涙腺はこんなに弱くなったんだ。


「これでは、佐助と一緒でござるな…」
「ち、ちがいます!猿飛佐助よりも、お優しい、です」
「某は、優しくなどないでござる。現にこうして、あなたを泣かせてしまった」


苦笑いをしているという表現が一番あっている表情で幸村さまが言った。幸村さまだけは困らせたくなかったのに…その思いは私の涙腺には届かないみたいだ。


「困らしているのは重々承知でござる、だが、ずっと前からあなたのことが好きだった」
「ずっと、前、から?」
「ずうっと、前でござる」


記憶を巡らせてみるけど幸村さまとは城に来てから初めて出会ったはず。何せわたしはただの甘味屋の娘だったから。


「佐助がいつも買ってくる団子が美味しくて。どこで売っているのか知りたくなったのでござる」
「…はあ、」
「それは小さな甘味屋であったが、人が溢れかえっていて穏やかな雰囲気の店であった」
「、それって…」
「そう、あなたのいた店でござる。そこの団子は相変わらず美味かった」
「前に、会ってたんですね…」
「太陽のような笑顔で団子を持ってきてくれたあなたに、某は心を奪われてしまった。その時から、ずっと」
「好きでいてくれたんですか…」


まさか、まさか。知らなかった、幸村さまがあの店に来ていたなんて。小さかったけど家族みんなで頑張って営んでいた店。大好きだったあの店に、幸村さまが。


「…某が、佐助に無理を言って城に来てもらったのだ」
「え…、」
「本当に勝手だと思っといるでござる…申し訳ない、」
「…なんで、ですか」


「あなたと、ずっと一緒にいたいと、思ってしまった」


切なそうに細められた瞳はわたしを見つめていて、その瞳から逃れることはできなかった。正直、家族と離れるなんて嫌だったし、なぜ自分なんだ、と泣いたこともある。

それが全部、幸村さまの考えだったなんて…


もやもやとした行き場のない気持ちをどこにぶつけたらいいのか分からなくて。その時幸村さまの胸にあった腕をグイッと引っ張られて、気付けば幸村さまの腕の中。



だから廊下の向こうにいたあなたには気付くことなんて、できなかった。



交差して出会う






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けどこんな話大好物です!

100103 エコ