君には、言えない



なにやってんだ、俺様は。柄にもなく心臓が高鳴ってものすごくうるさい。足音を殺してるからなお、鳴り響いてる。俺は、なにした?何が起きたんだよ。とにかく考えることも嫌になって気を紛らすために与えられた仕事をこなしていた。


「おお、佐助!」
「旦那…」


にこにこと嬉しそうな顔をしながら旦那が近づいてきた。額にうっすらと汗を書いていることから今まで槍を振っていたんだろう。


「なにー、また政務しないで訓練してたの」
「ま、またとはなんだ!ちゃんと訓練することもこの甲斐の国を」
「はいはい」


旦那のことを見ると、あの子を思い出した。今までであった人の中で初めてこんなに俺様の心を乱している少女。その子は旦那がすきで、旦那も少なからず好意を持っているんだろう。わざわざ、探してこいなんて頼むくらいだから。


「それで、見つかったか?」
「ああ…まあ、ね」
「まったく何をしたのだ、佐助」
「うーん…接吻、とか?」
「そうか、接吻…接吻!?」


目を真ん丸にして飛び出すんじゃないかってぐらい驚いてる。まあ、当たり前か。自分でもびっくりしてんだから。


「せせせ、接吻など、お主は、なんと」
「うん…旦那、ごめんね」
「そ、某に謝ることでないでござろう!」
「うん…そうだよね。本当なにやってんだよ、俺様は」


なんだか悔しかった。旦那はあの子を笑わすことができる。すぐに笑顔になる。でも自分は?いつも会ったら喧嘩して、彼女は自分のことを嫌っているだろう。そう思うと口付けせずにはいられなかった。


思い出したくないはずなのに、目の裏に浮かぶのは彼女の顔で。暖かい、柔らかな唇が、まだ忘れられずに残ってる。

君が、好きみたいだ。



君には、言えない



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拍手連載4回目です。

なかなか事態が動かずすいません、たぶんまだ接吻にとまどってるでしょう、旦那は。

エコ 091107