繋がった思いと一緒に



もう迷わずに門までいける。迷わずに、家に帰れる。迷わずに、生きていける。なんて、とても大それたことまで考えてしまうようになった思考を払いのけるように頭を軽く振った。そんなことで今、悩んでることが消えるわけないのに。


「今さら、どうしろっていうの」


今の私はただの町娘。もう門の外に出てしまえば、この城に入ることは一生ないだろう。あんなに願ってた我が家に帰ることも今となっては、少し憂鬱になる。


「だ、だいたい!猿飛佐助が悪いのよ!女の子の気持ちを振り回すような真似して!」


なんて周りに誰もいないのを良いことに独り、愚痴を零してみる。ずっと心に渦巻く猿飛佐助の存在。考えたくないのに、どうしても離れてくれない。


「素直になったところで…どうせ実ったりしないし、」


彼は忍びで私は町娘。こんな出来事がなければ、絶対に会うことも無かっただろう。


「ああ、もう!馬鹿!猿飛佐助の、」


息を大きく吸い込んで「馬鹿」の言葉を吐き出そうとした時、背中に大きな…心地よい温もりを感じた。


「ちょーっと、傷つくから勘弁してよ」


なんて、私の大好きな声で言うから続きの言葉がこれ以上出てこなくて。出てくるのは、込み上げてくる涙だけだった。


「…本当に、ごめん」


さっきまであんなに冷たい表情で接してきたのに、今はとても暖かい体温を感じる。耳元をくすぐる謝罪の言葉に返事をしようとしても、涙で喉がつかえて言葉がでない。


「本当に勝手だと、思う。旦那のことが好きなのは分かってるから…」
「…う、わよ」
「旦那のことが好きでも、いいから…城を辞めてほしくない」
「ち…う、わよ」
「まだ一緒に、」

「違うわよ!馬鹿!猿飛佐助の馬鹿!」


涙で喉がつかえて声が出ない、なんてそんなこと思ってるうちに猿飛佐助が馬鹿なことを言い出した。


「幸村さまがすき?そりゃ好きだったわよ!猿飛佐助とは違って、優しいし、かっこいいし!」
「…けっこう傷ついてんの、分かる?」
「分かるわけないでしょ!私はもっと傷ついたわよ!意味わかんないときに接吻するし、抱きしめるし!なに、終いには幸村さまが好き?」
「…うん、」


「猿飛佐助の方が好きよ、馬鹿!」


今の私はそうとう不細工だろう。好きな人に勢いで愛を伝えて、その上暴言まで吐いてるんだから。そう思ってると、後ろからの温もりが消えて向かいあうように腕を引かれた。


「あーもう、どうしてそんな可愛いの」
「…は?頭、大丈夫…?」


ついにおかしくなっちゃったんだ、頭。顔真っ赤にさせて、告白してる女なんか可愛いはずないじゃない。なのに猿飛佐助は顔をにこにこ、いや、にやにやさせながらこっちをみている。


「両思いだったんなら、早く言えば良かった」
「…なにを」
「ん?大好きだってこと」
「…馬鹿、」
「だからちょっと、傷つくってば!」


素直になれない私たちだけど、あなたと一緒にいれるだけで幸せになれるって信じてる複雑に曲がりくねってた恋が今、やっと繋がったから。




繋がった思いを一緒に




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拍手ありがとうございました!

ついに、一応、終わりました、短期ともいえない拍手連載!最後の終わらせ方がまた微妙すぎて、なんとも言えませんが…。

これからもbe stuck onをよろしくお願いします*

100608 エコ