インパチエンス



「え、ローズさん帰ったんですか」



帰ってきた僕を迎えたメイドが小さく頷いた。まあ…確かに帰るのも無理はないと思うけど。急用ができてしまって会えなくなったのは僕の責任だ。


「そう…またこちらから連絡しておくよ」


そう言って自分の部屋へ急いだ。なぜか、ものすごく胸騒ぎがして。


そう思いながら部屋に入ったときだった。目の前には散らばった紙の山。たぶん窓から風が吹いて飛んだのだろうけど、誰が窓を閉めた?メイドたちならこの紙も片付けていくだろう…


もしかして、


その嫌な予感はどうやら当たったようで、僕の気付かぬ間に兄がドアにもたれかかって立っていた。手には、あの例の紙。



「どういうことだ、レギュ」

「…なんのことですか」

「なんのこと?…お前が一番わかってんだろ」



兄は手にとるようにイライラしているのが分かった。分かっている。なぜこんなにも怒っているのか。



「ああ…大好きな人がこんな調査をされているから?それとも…僕にとられたから、かな?」

「レギュ、お前…!」



顔を真っ赤にさせて怒る兄に対して自分はとても冷静だった。ローズに調査書を見られたかどうかはまだ定かではなかったが、いつかはばれると思っていたこと。



「本来なら、あなたの婚約者になるはずだった人が僕のものになったんですから。憎いですよね、」



僕が憎いだろう、もっともっと憎めばいい。僕を殺したくなるほどに。だから、僕はあなたを、あなたたちを裏切りつづけよう。



幸せな、未来のために。




Impatiens


(僕の気持ちは)(隠しておこう)



(花言葉:鮮やかな人)