消えてくれない現実




頭の中は鉛が入っているように重い。まさに今の気分はこんな感じだった。あの日、父から婚約者を告げられてからずっとこんな感じなのである。ぐるぐると廻る色んな思いが心を支配していて、考える度に気分が落ちる。

「お嬢様、今日は天気がよろしいので外に出られては…?」

そんなエドワードの誘いにも快く頷けないほど、気が滅入っていた。だがエドワードの言う通り、外には雲一つない空が広がっている。

「そうね…、今日は外に出ましょうか」

そういってエドワードが持っていた白いつばの帽子を受け取る。今日、この判断がこんなに重大な出来事になるなんて思わなかった。




「いったいここはどこなの、」



そう呟いた時にはもう遅かった。周りを見渡しても知らない風景ばかり。考え事をして歩いているうちにまったく場所がわからなくなってしまったのだ。


「エドに着いてきてもらうべきだった…」


なんて後悔しても遅くて。とりあえず周りを見渡してみても人一人いない。かといって、人がいたとしても聞く勇気はないのだけれど。だが、そうしているうちにどんどんと時間は経ってしまう。早く帰らなければ、エドが心配してしまうかもしれない。いや、まさか迷子になっているなんて思いもしないだろうな。


「だめだ…人を探そう」


そう思い立った途端、神に願いが届いたのか前から人が歩いてくるのが見えた。神様なんてしんじてるわけじゃないけど、今は人が見つかったことに感謝することにした。そして、ここで話しかけるのを戸惑ってたら一生帰れない。


「…あ、あの!すみません、」
「はい、」


ただ道を尋ねるだけだったのに。昔から嫌なことは続くものだということを今になって思い出した。声をかけなければ良かったなんて今さら気づいても、もう遅くて。


「…レギュラス、ブラック」


目の前の人は、漆黒の髪に灰色を帯びた目。あの人によく似て端正な顔をした人で。


「はじめまして、ティアラさん」


こんな出会い方、したくなかった。