何もいらない



「いい加減、ティアラと話しなさいよ」

帰ってくるタイミングを完璧に間違えてしまった。リリーとの授業の帰りに図書館による用事があったので、リリーと別れて一人で図書館に行った帰り。グリフィンドール寮の談話室の隅のソファーでリリーたちが、私の話をしていた。

「最近、避けているでしょう!」
「まあまあ、リリー」
「エバンズよ、ポッター。あの時から、ティアラを」
「…避けてねえよ」
「避けてるわ!」

そんな言い合いが少し続いてから、シリウスが大きな音を出して立ち上がった。

「あいつこそ!俺といるよりブロングといる方がいいんじゃねえのかよ!」
「シリウス!…ティアラ、」

リーマスの声に、6人だけじゃなく談話室にいた皆が自分を見ていた。気付かれるつもりじゃなかったのに。早くここから逃げたかった。ここにいたくなかった。皆の視線に顔が熱くなって、けどシリウスの顔を見たらその熱も引いていった。こっちを見てびっくりしている中にも、少し苛ついた顔をしている。

「ごめ、ん…なさい」

目的もないまま走った。ただあの場にはいたくなかったから。分かってた、こうなるって分かってた。覚悟してたつもり。なのに、なんでこんなに涙が出るんだろう。

「ま…、わよ」
「、もう…」

無我夢中に走っていたせいで1つの空き教室にたどり着いた。その空き教室からかすかに声が聞こえてきて、その声はどこかで聞いたことのあるものだった。

「ちゃんと言う通りにしただろ!もうこれ以上関わらないでくれ!」
「そんな口、聞いていいのかしら?あなたにはまだ働いて貰わなきゃ」
「もう、止めてくれよ!」
「だめよ、ちょっと仲良くなったぐらいで止めるなんて。そうね…恋人くらいになってもらおうかしら?」
「…いい加減に、」
「家族が、どうなってもいいのかしら?」

信じられなかった。空き教室にいたのは、スリザリンの女子と…ウィリアム。

「私のお父様に頼めば、あなたの家なんかすぐに潰せちゃうの」
「止めろ!」
「嫌よね?じゃあ分かるわでしょ?」

何が起こっているのか頭で処理ででかない。なぜ、ウィリアムが。あんなに優しかった…のに。

優しさなんて、あてにできない。優しさなんて信じられない。心がギシギシと音をたてて崩れていきそう。人を信じられるかもなんて、なんで思っちゃったのかな。

信じたからこそ、涙は止まらなかった。