手を伸ばせないから



あれからだいぶ日にちがたって、かなりホグワーツに慣れてきたと思う。動く階段の仕組みもだいたい分かってきたし、グリフィンドール寮のみんなとも仲良くなれた、気がする。けどやっぱり慣れないことが一つ。


「あら、出来損ないのフィレイフィスさん。まだホグワーツをやめていなかったの?」
「あ、の…」
「ああ、帰る家もないのね。勘当されたも同然だもの」


この人たち、スリザリンの人。会うたびに、声をかけられる。…だいたいは家のことだったり、私のことだけど。しかも彼女たちが言っていることは、あながち間違っていない。最初に吠えメールが来てから、返事を返さずにいたら父からそれ以降、連絡が途絶えた。それは所謂、勘当まがいのものを表していた。


「おい、ティアラ。次の授業遅れるぞ」
「あ、うん」
「またナイトの登場?…あなた、本当に自分の力では何も出来ないのね」
「っ、」


去り際に言われた一言にまた深く落ち込んで。ああ、まだ慣れていないことが一つあった。わたしはまだ、誰にも心を開けていない。…シリウスにでさえも。人の優しさに戸惑ってしまうし、正直いうと皆、偽りに見えてしまう。

なにより、こんなこと絶対皆には言えない。こんなにも優しくしてくれる皆を裏切りたくなかった。


「ティアラ、勝手に暗くなるなよ」
「シリウス、ごめん…」
「あんなこと気にするな。好きに言わしとけばいい」
「なに?またいじめられたの!」
「リリー、そんなこと」
「ティアラにはまったく非はないわ!バカみたい、ね?」
「ええと…うん、」


やっぱり皆は優しい。そう感じるたびに、心が傷んでまた落ち込みそうになる。こんな私のために悩んだり、怒ったりしてくれるなんて。

私は皆を信じられないんじゃない、
信じてしまうのが

怖いんだ。