暖かさ裏側



『大丈夫だから、絶対に守るから』

小さいころにそうやって励ましてくれた名前もわからないあの子が妙にシリウスにかぶってしまった。…シリウスなわけないじゃない。そう自分に言い聞かせて今はシリウスに甘えさせてもらうことにした。

「ちょっとは落ち着いたか?」

まだちょっとぼうっとするものの、ちゃんとシリウスの顔が見える。ああ、シリウスは本当に優しい人だ。こんな私にこんなにも心配した顔をしてくれていたなんて。

「発作、よく起こるのか?」
「う、ううん!初めてだった、よ?」
「ふーん、そっか…」

嘘だった。発作なんて1日に何回も起こすことがあったし、逆に起こさない方が珍しかった。いつも誰も助けてくれないから、誰かに助けてもらうなんて初めてだったから。つい甘えてその腕を求めてしまった。

「お前なんでこんな状況にいるか分かってるか?授業中に呪文跳ね返ってきて倒れてここに運ばれた。覚えてる?」

ちょっとしか覚えていなかったけど、とりあえず首を縦にふっておいた。…やっぱりあのあと倒れちゃったんだ…。あんなことくらいで失敗して皆呆れてるんだろなあ、

「皆心配してたぜ?急にぶっ倒れるからさ。エバンスなんて泣きわめいて手つけられなかったんだぜ?」
「皆…心配してくれてたの?」
「は?当たり前だろ?」

あまりにも普通にシリウスが言うもんだからまだ言われたことをあんまり理解できていなかった。心配、する?私を?

「まあグリフィンドールのやつだけだけどな。合同はスリザリンだったから。」

心配なんてされたことなかった。いつも無いもの同然に扱われて私の存在なんかなかったのに。

「たぶん、…たぶん違うよ。わたしを心配なんて…あり得ない、から」

そう言って俯いているとシリウスから軽くデコピンをされた。

「外見たらさ、そんな不安が一瞬で吹き飛ぶから」

ますますワケがわからないシリウスに頭を悩ませながら、重い体を起こしてベッドからでようとする。

「あ、ちょっと待って」

外に行けと言われれば、待てと引き留められたり…シリウスはやっぱり矛盾してる気がする。

「俺さ、ティアラが倒れてすっごい不安だったんだぜ?だからさ、」

なんだか妙に怪しさを含んだ笑みを浮かべて、こっちを見てきたからなにかお礼をしなければと思った。こんなにも心配してくれていたにも関わらず、私はお礼さえ言ってなかった。

「あ…あの、ありが」
「礼はいいから…名前呼んで、」

私の両手をぎゅっと握っていつもの優しい笑顔でそう言ってきた。ありがとう、という言葉をシリウスに遮られてしまったけどそれであなたが喜ぶなら。

「シリ、ウス?」
「ん、もっかい」
「…シリウス」
「もう一回だけ、」

「シリウス、ありがとう」

そう言ったらシリウスはすごく幸せそうな顔をして私を見ていた。そんな顔をみるとなんだか私まで嬉しくなってきて、何回も何回もシリウスの名前を呼びたくなった。

「よし、じゃあ外いくか。…あ、足音たてんなよ?」

そっと足音がたたないようにシリウスと共に保健室を抜け出す。でも手はまだ、繋がれたままだった。