暖かさ裏側



目覚めたときには、目の前は真っ白の世界だった。ただただ、頭がぼうっとしてて薬品の鼻につく臭いがしている。体をなんとかして動かそうとするけど、全く動かなくてその代わりにだるさが襲ってきた。

「気持ち悪い…」

ぼそっと呟いた声はそのまま暗い闇に消えていって無くなっていった。それは、人に聞こえるような大きさではなかったが。

ああ…今、夜なんだ。

やっと視界がはっきりしてきてカーテンで閉められた隙間から月の光が漏れていることに気付いた。

…私、なにしてんだろ、ここどこかな。起きて、授業を受けていたはずなんだけど。…ああ、呪文に失敗しちゃったんだった。跳ね返ってきた呪文に意識が無くなっていって、…それからは覚えてない。覚えてるのは、シリウスの声と…スリザリンからの罵倒の声。

考えただけで体が震えてきて止まらなかった。昔からのトラウマのせいで、いきなり発作が起きることはよくあった。息が苦しくなって、呼吸することもままならなくなる。

「はあっ…う、」

体の中がぐちゃぐちゃに壊れてしまったみたいに自分で制御できなくなってしまう。

こわい、こわいっ…!

誰か、誰か助けてっ!と、いつも声にならない叫びとともにただ喉からでる咳に涙が溢れてくる。

胸の苦しみが最高潮にきたときに、いきなり手に暖かい温もりがきた。涙で潤んだ目では全く何か分からなくて、でも確実に安心できるのは確かで。

「大丈夫、大丈夫だから」

そう耳元で聞こえたのは、紛れもないシリウスの声で。ただただぎゅっと握ってくれる手にさっき出ていた涙がなぜかもっと溢れてきた。なんでシリウスがここにいるかなんてまったく分からなかったけど、そんな事どうでもいいくらい酷く安心した。

その瞬間、握っていた手をぐいっと引かれてシリウスの腕の中にとびこんでいた。シリウスの腕の中は2回目で、相変わらずリズムのよいトクン、トクンという心臓の音にだんだんと呼吸が落ち着く。

「お前、いっつもこんなんなの?」

シリウスの顔はやっぱりあんまり見えなかったけれど、声は確かにシリウスだった。

「っ…いや、大丈夫だ、から。もう、いい…」

まだ焼けつくような喉の痛みに耐えながらシリウスにどうにかして離してもらおうと思った。意識がはっきりしてくるとシリウスに抱き締められている、という事実が妙に恥ずかしくなってきた。

「うっさい、ちょっと黙ってろ。静かに抱き締められとけ」

自分が聞いてきたにも関わらずに怒られて、より一層ぎゅっと抱き締められた。ぽんぽん、と背中を叩かれてなんだか昔のことを思い出した。