09



「シリウスー!」
「また、ヒナ…」


いつものごとくいつものように抱きついてくるヒナにいつものように怒鳴ったが…いや、いつもの感じじゃない。頬をいつも以上に赤くさせて、目は確実に潤んでいる。…なに、このやらしい感じ。…はっ!んなこと言ってる場合じゃねえ!


「あのねー?さっきリーマスがおっきなチョコレートに襲われて、リリーがもうわっけわかんないくらい…ぷっ!…それでね?ピーターは意外に太ってるんだよ。ふふふ」


身ぶり手振りをしながらヒナは話してくれるが…はっきり言って意味がわからない。おい、お前…まじで大丈夫か?一応ヒナのおでこに手を当ててみる。…うん、あつい。


「お前熱あんじゃねーの?」
「えー?ないよう。元気元気!んふふー、シリウスすきー」


そう言いながらヒナは俺の首に手を回して抱きついてくる。


「ちょ、おまえ…ってくっせ!」


ヒナの口からプンプン香る酒のにおい。しかもかなり…。


「おまえ!酔ってんのか!いや、酔ってるよ!酒くっせえよ!どこで飲んだんだ?というか誰に飲まされた!」
「酔ってないよ!酔ってないのに…なんでそんなに意地悪なのー!」


ちょっと問いただしただけなのにヒナは泣き出してしまった。まったく泣きたいのはこっちの方だよ…、いったい何があったんだよ。


「やあ、相棒!元気かな?」

そこに現れたのはにこにこと異常にご機嫌なジェームズだった。…笑顔が異常すぎる。


「おまえか!」
「なにがだい?」
「すっとぼけても無駄だ!おまえだろ!ヒナに酒飲ましたの!」


だから酔ってないよう、なんて呟いてるヒナは無視してジェームズに怒鳴った。


「なんのことかなあ?あはは、相棒カルシウムがたりていないようだね!」
「ジェームズ!」
「まあまあ、誰が飲ましたかなんてどうでもいいじゃないか!それより…ヒナが酔ったらどうなるか、知ってるかい?」


にやりとジェームズは笑ってさっきと打って変わって静かになったヒナを指差した。


「どうなるって…いつもと変わんない、」


…俺が馬鹿だった。今までこいつがまともなことしてきたことなんてなかったじゃねーか。なのにこいつが酔ったことばっかり気にしてどうなるかなんて考えてなかった。


「ん…、シリウス。ちゅーしよ」
「よかったじゃないか!相棒!では、邪魔者は退散するとしようか。後で感謝されるのを待っているよ!」


そう言い残してあの馬鹿めがねは男子寮へと帰っていってしまった。


「シリウス、はやく」


なんて目が据わっちゃってるヒナは俺の服のすそを掴んでキスをせがんでいる。いやいやいや!まさかヒナが酔ったらキス魔になるなんて知らなかった。いや、知る由もないからな。…なんて冷静な分析をしてる場合じゃねえ!


「ちょっとまて、な?おまえ酔ってんだよ!だからとりあえず寝ろって!」

なんて意味のわからないことを言ってみる。…がもちろん効果なんてなくてさらにキスをせがんでくるようになった。


「もー、はやく!…そんなにするのやだ?」


…ヒナは酔ったらとことん質が悪いらしい。上目遣いでこっちを見て、…そりゃもう、たまらなく可愛い。…ここは好都合としてキスするべきなのか!?酔った勢いで、なんてよくあることだし…あっちから誘ってきてるわけだし…。ああ!俺!どうにかしろよ!


「あの…なにやってんですか」


声がする方を見てみると、我が弟レギュラス。

「…ヒナを離してください」

そう言って俺からヒナを奪い取って自分の腕の中に収めていた。…ちょっと待て。なんでレギュラスがここにいるんだ?ここはグリフィンドールの談話室で。…談話室で。だんわしつ…で!


「ジェームズ!」


レギュの横にいたのは今にも吹き出しそうなジェームズ。あの後、男子寮にもどったのではなくレギュラスを探しにいっていたのだった。…こんな展開を望んで。


「はあ…ほんとあなたって人は最低ですね。酔った人間を自分の欲望のままにしようとするなんて」

これ以上こんなところにヒナをおいておけません。なんていってヒナをつれて談話室を出て行った。

「ちょ、おい!レギュ!…ジェームズ!」


出て行ってしまったレギュに何を言っても仕方ないので怒りの矛先をジェームズに変えた。


「…僕はなーんにも知らないよ?」


じゃあね、と言って今度こそ男子寮に帰っていった。一人残された俺はさっきまでヒナを抱き締めていた手をとりあえずおろして、なんだかすごく虚しくなった心となんだか溢れてくる涙にひたすら耐えていた。




(おはよ!シリウス!)(…もう知らねーよ!)(えっ、なんでおこってんの!?)