舞う蝶はあまりにも



目の前で繰り広げられている信じられない光景を誰が予想していたでしょうか。上座に座った伊達さんがほろ酔いになりながらも私に舞え舞えと催促しているのだから。相変わらず、ぶすっとした片倉さんは怖くて絶対に目なんか合わせられないけど。

「なまえ!早くしろ!皆楽しみにしてるぜ!」

その掛け声と同時になんていうのかな、家来、舎弟…うん、まあ周りの人たちが威勢よく声を上げていた。いやいやいや、皆さん出来上がってますよね!?

「で、でも…ほんと、下手なんです」
「Ah?構わねえよ、興味があるんだ」
「うう…、」

絶対的な言葉を影に含ませながら伊達さんは命令してきた。横では片倉さんがものすごい形相で睨んでる。し、死にそう…。さっき女中さんが用意してくれた綺麗な着物がやけに苦しくて、慣れてるはずなのに吐きそうになった。

「…では拙いものですが、少々。」

そう言って腹をくくって立ち上がり舞台にたち扇子を取りだし、構える。その瞬間、周りの空気がピンとはりつめた。三味線の音が一度鳴れば、扇子を持っている手を一度動かし舞う。手の先から足の先まで、まるで一本の線が通っているように動く。ただ、己の感じるがままに舞うことが好きだった。

最後に一度、三味線が鳴り舞が終わった。その瞬間、久しぶりに舞った疲れがやってきて肩で息をしてしまうほど。シーンと静まり返った部屋に、ただ私の微かな息づかいだけが聞こえる。あれ、あれれ。そんなに変だったかな…!もしかしてなんかミスして、た?

「ええと…どうだった、でしょうか?」
「…さまだ、」
「へ?」
「天女様だ!」
「てん、にょ?」

一人の家臣がいきなり立ち上がり私に向かってそう叫んだ。何人かの家臣は大きく頷き、まるで珍しいものをみるかのように目を丸くしている。…ん?意味分かんないぞ。いきなり、天女って、

「あのう、天女って…」
「Ha!なまえ、Beautifulだったぜ。野郎共っ、なまえに酒だ!」
「え、天女って…」
「天女様!どうぞ、俺たちに幸運を!」
「はっ!?」
「なまえは俺たち奥州の守り神だ!丁重にもてなせ」
「ま、守り神っ!?」
「はい!筆頭!」

なんだか盛り上がってる皆をよそに一人、頭を抱えている片倉さんがやけに味方に見えて仕方がなかったのは、たぶんこの異様なテンションのせい。そしてこれからの奥州での暮らしがもっと心配になったのは、他でもない、あの伊達政宗のせい。

感動をかえせ!ばか!なんて一人で思っても、皆の盛り上がりは冷めることはなかった。あのう、一応、未成年…なんですけど。




舞う蝶はあまりにも





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天女さま、らしいです←

仲がいい奥州が大好きです!


090727 エコ