大切なもの
「…はやく行かないと、また片倉さんに怒られますよ」
「おい」
「片倉さんに怒られるの、私なんですからね」
「なまえ」
「もう、そんなに離れるのが寂しいんですか」
そう言った瞬間に気づけば伊達さんに腕を引かれて、見たくなかった顔がすぐ目の前にある。
「伊達、さん」
「…とりあえず泣くな」
「無理、です」
「阿呆、泣くな」
伊達さんの手で拭われる涙は止まらない。伊達さんを困らせたくなくて。でも涙は止まってくれなくて。涙で視界は滲んでるけど、伊達さんが困った顔をしているのは分かる。
「いいか、なまえ」
「は、い」
「今から俺は、戦に行く」
「…は、い」
「前まで戦ってもんは、楽しむだけのもんだった」
「、はい」
「誰かのためだとか、何かを守るためとか。そんなもんただの綺麗事だと思ってた」
「今、は?」
「俺は一国の城主だ。民や家臣のために、この国を守るために俺は戦にいく」
少し息を吸って、とても幸せそうな顔をした伊達さんが言う一つ一つの言葉がゆっくりと心の中に入ってくる。
「そんなこと思えるようになったのは、全部お前のおかげだ」
「わ、たし?」
「お前がいなくなったとき、何一つお前の気持ちを分からずに守ってやれなかった」
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