なまえがいなくなって随分時が経った。あいつはどれだけいなくなれば済むんだ。結局最初から訳がわからないやつだったな…。名前を呼ぶたびにすごい笑顔になったり。…俺と、似てたり。
「何を、抱えてたんだよ…」
そんなことを考えていると私室の外から家臣たちのざわめきがきこえてきた。…敵襲か?でもそれにしては家臣たちの声に緊迫感は感じられない。
「いったい、なんだってんだ…」
障子を開けて騒ぎが起こっている場所へ向かう。…調理場?なんだってこんな場所に。
「ま、ま、政宗様!」
「て、て…」
「そのどーんと、」
調理場に駆けつけたのであろう家臣たちが慌てふためいた様子で俺の視界を塞いでいた。おいおい…なに言ってるのかさっぱりだぜ。
「お前らが退かねえと、見れねえ。何があった」
「その、また…」
「伊達さん!」
目が姿を見る前に、耳があいつをとらえていた。この城で俺のことをさん付けで呼ぶやつなんか一人しかいない。
「なまえ、」
「伊達さん!」
目の前にいた家臣を押し退けて姿を確認する。
…いた、今度はちゃんと、いる。
俺の姿を見ると、大粒の涙を目にためて駆け寄ってくるなまえ。着流しの袖を小さく握る手から、なまえの体温がゆっくり伝わってくるみたいだった。
「…とりあえずお前ら、持ち場に戻れ。後から説明する、」
さっきから慌てていた家臣たちにそう言い残してなまえの手を掴み歩き出した。後ろでまだ慌てている家臣たちに苛立ちながら私室に戻る。
「だ、伊達さん!私、言いたい…ことがっ」
「…うるせえ」
なまえがぐちゃぐちゃ後ろから話し掛けてくるが、すべて無視する。ただ私室を目指して歩いた。
「だ…伊達、さん」
私室の障子を開けてなまえの手引いて無理矢理入れる。
「伊達、さん?」
気付いた時には抱き締めていた。自分よりだいぶ小さいなまえは腕にすっぽり埋まっている。なまえはだいぶ困惑しているみたいだけど離す気はない。
「なんなんだ、お前は」
「…なんなんでしょう、」
「阿呆、俺が聞いてんだよ」
「あ、阿呆じゃないです」
「いなくなったから…充分、阿呆だ」
抱き締めてから時間がたつとなまえも抵抗することなく素直に抱き締められている。ゆっくりと聞こえるなまえの鼓動。それが今の俺には心地よかった。
「…伊達さん、私、帰ってきました」
「、ああ」
「いっぱい…いっぱい伝えたいこと、あるんです」
「…ああ」
「けど、今は…」
そう言って、なまえは抱き締めている俺の手を力強く握った。そして小さく息を吐いて、
「ただいま、伊達さん」
「おい…やっぱりお前、阿呆だな、」
そう言ってなまえをより強く抱き締める。そしてもう離れないように、おかえりを呟いた。
久しぶりの鼓動