「お兄ちゃん、見て見て!」
綺麗に着付けられた着物を見てもらうために舞の練習をしていた兄のところへ走っていく。勢いよく入った部屋にはちょうど舞が終わった兄と、こちらをちらりとも見ない母がいた。
「ああなまえ、綺麗だね」
そう言ってにこりと笑ってくれた兄に少しだけほっとして、私も笑いかける。
「…奏さん、まだ練習の時間ですよ。」
「、ええ。すみません」
母の一言にまた音が鳴り始めて、兄が舞をはじめた。…だめだ、早く、出ていかなきゃ。そう思うのに、何故か足は動かない。
「お母…さん、」
「なまえちゃん、あなたも今日は練習の日でしょう?」
「…は、はい」
「なら、お兄ちゃんみたいに頑張らなきゃ、ね?」
「っ、はい!」
練習しなきゃ、そう思って急いで部屋を出た。ただお母さんが話をしてくれたことだけが嬉しくて。お兄ちゃんみたいに、頑張らなきゃ。
お母さんが、言ってくれたんだから。そんなことに舞い上がっていて、お母さんとお兄ちゃんがあんな話をしていたなんてなんて。あの時、伝え忘れていたことを思い出して戻らなければ。聞かなくて、済んだのに。
「…母さん、本心、だったんですか」
「、何がです」
「なまえに言ったことですよ」
「何か言いましたか、」
「自分のように、練習を頑張れなどと」
「そんな事どうでもいいでしょう」
「なまえが跡取りになるかもしれない」
「…それはありえません」
「なんで、」
「期待…してませんから」
自分の中の何かが壊れた気がした。舞が下手でも、頑張れといわれる事が嬉しかったのに。期待を、されていなかった。
「わたしは、いらなかったんだ…」
そう気付かされたわたしの心は、もう誰にも、開かない。そう決めて、生きることにした。誰もわたしの気持ちには、分からないんだから。
モノクロになったわたし‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
過去になりました。
ちょっとずつ明らかにしていきたいと思います!
10130 エコ