何回、目を瞬いても、何回、地面の感触を確かめてみても。今わたしがいるのは、どうみても戦国時代じゃない。道の向こう側には、見慣れていたはずの明かりが輝いていた。あっちの世界では絶対に見えない明るさになぜか心を締め付けられた。
「うそ…戻って、きたの?」
さっきまで目の前にあった扉はなくて、伊達さんの声は聞こえない。全部夢だったんじゃないかと思うくらい、あまりにも急だった。今の格好はちゃんと制服姿で。持ってなかったはずの鞄も持っている。
携帯を確認してみると、わたしがあっちにいった日と何の変化もない。全然たってない月日にただ呆然とした。今までの出来事は、すべてリセット。何も、なかったんだ。
「だめだ…とにかく帰ろう」
そう言い聞かせて足を動かす。一歩一歩、家に近づく。あれ…おかしいな、現代に戻ってきたのに、全然ほっとしない。ただ胸がちくちくする。そんなことを考えてたら、いつのまにか家の前で。実際時間は変わってないはずなのに、家が懐かしく感じる。
「…ただいま、」
その声を聞いた家のお手伝いさんが玄関まで出迎えにくる。俗に言う、わたしの家はお金持ちなんだと思う。現に、家にはお手伝いさんが数えきれないくらいいたし、欲しいものは全部あたえられてきた。
「お嬢様、おかえりなさいませ。今日も旦那様は帰らないとのことです」
「…あ、そう。あの、人は?」
「奥様は奏様の練習の付き添いに。帰りは遅くなると思いますが…」
淡々と用件だけ伝えて、わたしの返事を待っているお手伝いさん。…別に構わないでいいんだけど。そう思ったけど中々動かない姿を見て、もう行っていいと声をかけた。
「やっぱ、疲れるな…」
けどあの人、お母さんは家にいなかった。奏お兄ちゃんの日舞の練習を見に行っている。ほっ、とするのと同時に、それを飲み込むくらいの虚無感が襲ってきた。
由緒ある日舞の家元であるみょうじ家の跡取りとして大事に育てられたお兄ちゃん。まるでいらない子のように空気同然だったわたし。
腫れ物にさわるようにわたしを扱う両親に今まで耐えてきた。わたしが不満を言ったところで何もかわらないから。
久しぶりに入るような気がする自分の部屋。唯一安心できる空間に一気に肩の力が抜けた。
「伊達、さん。今…なにしてる?」
わたしが呟くこの言葉は、もう届くことはないのだろうけど。
蒼を求める、‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
お兄ちゃんがでてきました。
ヒロインちゃんの過去編に入っていきます、
たぶん
100113 エコ