笑顔が、見えない



あの手が忘れられなかった。

あの後、某だけが城に戻って片倉殿たちに必死になまえ殿はいなかったと説明した。先に連れ戻されていた伊達殿はすごくいらいらした状態で片倉殿は伊達殿をなだめていた。

「政宗様、諦めてください」
「うるせえ、」
「…やはり、怪しかったのです」
「さ、佐助!早く帰らなければ、お館様が」
「…ああ、そうだね」

なぜか佐助が何かに勘づいたらしく、話を上手く合わせてくれた。その後、伊達殿と話すこともなく城をさった。あまりにも、絶望的な顔をしていた伊達殿をこれ以上見たくなくて。

「着いたでござるよ、なまえ殿!甲斐はまっこと良い所!きっと気に入るはず」
「…温かい、ところですね」

河原で会った後、何があったのかは分からない。伊達さんになんて言ったのかは、さっぱり分からないけど真田さんは急いで馬に乗るように言ってこの甲斐に着いた。

ここ、甲斐に対する私の印象は民が明るいことだった。真田さんが通る度に皆顔を上げて笑顔で挨拶をしている。猿飛さんは嫌そうな顔をしてるけど。猿飛さんとは真田さんに紹介されて、仲良くなった。いや仲良く、はないか。

「お館様に紹介しよう!城に参るぞ」
「ちょ、先に行っちゃ、旦那!…もう、聞いてないし」
「あの、お館さまって武田、信玄?」
「武田信玄、様ね」
「…ごめんなさい」
「そうだよ、お館様。…やっぱり知ってるなんてなまえちゃん、怪しいよね」
「信じてもらえないのは、もう分かってます」
「…おもしろいね」

猿飛さんはにやにやしながら私の手を取って瞬く間に城の前に連れてきた。…余りにも一瞬のことで気持ち悪くなった、

「着いたよ、なまえちゃん」
「は、吐きそう…」
「いい?くれぐれも怪しい行動をしたら、」
「…はい」

出来るだけ早くこの人から離れたかった。この冷えた目と、いつも向けられる怪しいと思われてる不審の心。それに耐えられるほど、私は気丈じゃない。

「なまえ殿!」
「真田さん、」

手を離し、逃げるようにして真田さんの元へ行った。後ろでは猿飛さんがなんとも言えない表情で私たちをみていた。

「お館様の所へ案内するでござる」

そう言ってさっきまで猿飛さんが握っていた手を真田さんがなぜか荒々しく握って城の中に入っていった。…なぜだろう、真田さんの手の温みは、伊達さんに酷く似ていた。自分から離れたくせに、まだ脳裏にはあの人がいる。

「ごめん、なさい」

そう呟いた後、少しだけ目を閉じると、また伊達さんの顔がよみがえってきた。あの、私のお母さんと同じような冷たい目をして。




笑顔が、見えない




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無計画に進んでる、
長い間放置して
すみません…


090913 エコ