今、ほしいもの



「おお!伊達殿、久しぶりでござる!」
「ちょっと旦那ー、道草くってる場合じゃないんだってば」
「お久しぶりでございます、真田様」
「ああ、これは片倉殿。…伊達殿?」


様々な声が飛び交う中、伊達政宗は浮かない顔をしていた。戦友である真田幸村の声にも気付かないほど。


「政宗様…どうかなされたのですか」
「そんなに某たちが来たのが気にさわったのであろうか…」
「ほらほらー、旦那が無理に押し掛けるからー」



さっきのなまえの顔が忘れられなかった。あいつは朝から何かにうなされていたのに。なぜか俺はあいつを突き放してしまった。たぶん、それは、あいつが俺に似ているから。いつも何かに怯えている。朝の言葉から、あいつは母親と何かあったのだろう。全ては推測でしかないが、そう考えるとあいつは今どんな気持ちだ?


「…Ah、真田幸村。少し席を外す。」


そう言って客間から出ていき、急いでなまえを探した。後ろから真田幸村の叫ぶ声が聞こえてきたが、それを振り切りさっきまでなまえのいた自室に急いだ。



「伊達殿はどうされたのであろうか…」
「さあねえ…そういや、奥州に天女が現れたって噂は本当?片倉の旦那」
「天女など…、」
「あっれー、おかしいな。今まで感じたことない気配を入ってきたとき感じたんだけど」
「て、天女でござるか!」
「まあ…その噂の天女様は気配消えちゃったけど、あれ、誰?あと、竜の旦那も消えたけどね」
「消え、た?」
「何!それは探しにいかねば!よし、某がいこう」
「ちょっと!旦那!…って、あーあ。もう、行っちゃったじゃん」
「政宗様…!」


残された家臣たちも出ていった主君を探すために城を出ていくしかなかった。その頃、城を飛び出していった真田幸村は出ていったという天女をさがしていた。…しかし、天女殿はどのような方なのであろうか?まったく姿も分からないまま出てきてしまった。し、仕方ない。引き返そうと思ってとりあえず走ってきた河原を横切り城に戻ろうとした時、河原の砂利に座った女の人が見えた。…町中では見かけない上質な着物を着ている。あの方が、天女殿であろうか?

なぜそう思ったかはよく分からないけど、自然にそう思い惹かれた。ゆっくりと女に近づき、音がなるべくたたないように横に座る。すると女はビックリしたような顔で幸村を見た。何度も涙が落ちたのであろう目をぱちぱち、とさせながら。



「…だ、れですか?」
「某、真田幸村と申す」
「さなだ…ゆきむら?」
「いかにも。そなたは、天女殿でござるか?」
「天女…天女なんかじゃないです。わたし、は」
「名は…なんと申される?」
「…なまえ、です」
「なまえ殿、実に良い名だ」


そう真田さんに微笑まれて、ゆっくりと頭を撫でられると必死で止めたはずの涙がまた溢れてきた。やだな…いきなり初対面で泣いて、真田さん、絶対困るよ…。真田さんの手は前に撫でられた伊達さんの手に似ていてひどく安心した。


「そうだ、なまえ殿は甘味は好きでござるか?」
「は、い」
「そうか!ではなまえ殿は良い人でござる」
「?」
「甘味好きに悪い人はいないでござる!これぞ、真田幸村の格言でござるよ」


自信満々にそう言い張る真田さんがなんだかすごくおかしくて、今まで泣いていた顔が自然と笑顔になった。この人は本当に良い人だ。初対面でもそう感じることができた。


「あ!伊達殿との手合わせを忘れていたでござる!せっかく奥州にきたのに…」
「伊達さん、と仲良いんですか?」
「そうでござるな…良き、戦友でござる」
「戦、友」
「伊達殿は良き人でござる。まさに漢、民を大事にしておられる」
「そうなんですか、」
「だが、なまえ殿が泣いていたのは」
「やっぱり、私は、何もないんです…この、奥州にも、伊達さんのところにも、」
「では…甲斐に、来てみるでござるか?」
「か、い?」


ゆっくりとうなずいた真田さんになぜかすごく魅力を感じて、それでいてなぜか胸がちくん、と傷んだ。このまま私が甲斐にいけば、伊達さんはどう思うだろう?片倉さんは喜ぶかもしれない。まったく…私が天女だなんて、ほんと笑える。


「どうなさるか?」


脳裏には伊達さんのあの冷たい顔がよみがえって、無意識に私は頷いていた。



今、ほしいもの




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うわ!真田さん!
うわ!伊達さん!

あれ、伊達さん落ち?←


090812 エコ