きみ、わたし



ようは気持ちの問題でしょ?


「リリー!今日も愛してるよ!」
「はいはい、これで何回目?」


毎朝交わされるリリーとジェームズの会話。


「リコ、教科書とってきて」
「なんでわたしが…」
「お願い」


毎朝交わされる私とシリウスの会話。なんなんですか、この差。一応、俗にいうカップルとかいうやつなんだけどな、はっきり言ってこれはパシり。あんたのペットかわたしは、なんて思いながらわたしはシリウスの言う事を聞いてしまう。

弱いなあ…わたし、そう思いながらわたしは教科書を取りに行くために長い廊下を歩いていた。


「なんなんだろ…わたしの存在って」


ぽつりと呟くわたしはなんだかすごく切なくなってきて涙が溢れてきた。


「ねえ、大丈夫?」


いきなり叩かれた肩にびっくりしながら涙をいっぱい溜めた目でその人物を見上げた。


「…レイブンクローの人?」


見覚えのない顔に戸惑いながらも止まっていた思考回路をフル活動させながら質問した。


「え…あー、いきなり話かけてごめん。君が泣いてるように見えたから、大丈夫?」


そういいながら彼はわたしの顔をのぞきこんできた。まあ、無防備に構えてたわたしもいけなかったかもしれない。次の瞬間には唇に柔らかい感触。


「…へ?」


まだまだ理解するのについていけてない頭は止まったままだった。


「っ…ごめん!あまりにも、あの、可愛かったから!あっ…なんていっても気持ち悪いと思うけど!あの、ずっと前から、俺きみの事好きなんだ!」


いきなり早口で理由をいった彼はまたまた理解できない事を口にする。でもわたしはそんな事に気をとられる暇はなく、長い長い廊下の先にいるシリウスに目をとられていた。


「ちょっ…違うの!」


なにが違うんだ、わたし。そんな弁解もむなしくシリウスはわたしの前を通っていく。無表情のまま歩いていくシリウスはまるでわたし達が見えてないみたいだった。


「シリウス!」


そう叫んだ時にはシリウスの姿はなく後ろではあのレイブンクローの彼がなにか言っていたがわたしにはそんなの聞こえなかった。長い長い廊下の先に黙々とあるく黒髪の人。やっと追い付いたわたしは必死で腕をつかんだ。


「…なに、」


こっちを一度も見ないままシリウスはそう答えた。

「あ…あの、違うの。あの人とはなんもなくて…ただいきなり話かけられて…」
「で?話かけられてそれでいきなりキスする仲になるわけ?」


容赦なくわたしを責め立てるシリウスはあまりにも冷たい目をしていた。


「まあリコは相手が誰でもよかったんだな」


「じゃ、俺じゃなくてもいいんだろ?別れよっか」


その瞬間わたしの中でなにかが切れた音がした。


「ふっざけるな!バカ!なんなわけ?今まで散々こき使っておいて!わたしは都合のいい時にいる女じゃないんだよ?」


普段おとなしいわたしとのギャップにシリウスは驚いている。


「まあ別れたいならもういいや。今まで散々こき使ってくれてありがとう、さようなら」


そうわたしが言うとシリウスはいきなり笑いだした。


「なんだ、自分の意見いえんじゃん」


その言葉に思わず顔が変になった。


「いつも俺に遠慮してるっていうかいっつもおどおどしてたし」
「でもあんなに散々こき使ってきたじゃない!」
「嫌な事したらちゃんと本音で話してくれるかなあと思って」


「っ、そんなの分かんないよ…」


そんなシリウスのあまりにも不器用な自己表現に思わず涙が溢れてきた。わたしはシリウスのすべてを分かって付き合ってるつもりだったんだ。なのに何一つ気付けてなかった。


「…わたしは、ずっとシリウスに好きとか愛してるとか、いってほしかった。寂しかった…つらかったよ…」
「うん、」
「いっぱいいっぱいぎゅってしてほしいし、話がしたい…」
「うん…うん」
「…大好きなの、」
「リコ、…おいで」


涙を流し続けるわたしをシリウスはおっきくて長い腕を広げて呼んでくれた。久しぶりのシリウスの腕の中はあったかくておっきくて、わたしはこの腕を求めてたんだ。


「リコが俺の事大好きなら、俺はリコの事愛してるよ」


ぼそっと耳元で囁くシリウスはちょっと抱きしめている腕に力をいれた。不器用なわたしときみ、すれ違いながら完成した愛の形。気付いたのは、離れられないって事。