雷のち雷




「なんでこんな時間になったんですか」
「いや…これには深い訳が、」
「はあ、深いわけねえ。それはそれは聞き応えがありそうですね」


目の前でうろたえているシリウス、顔は異常に整っているのに今はただ滑稽な顔にしか見えない。そしてシリウスと結婚してから私は何度この冒頭の言葉を言ってきたのだろうか。


「さあ、深い訳を話してください。あ、別に時間とか気にしなくていいですからね。私、何時間でも聞きつづけますから」
「その、いや、」
「は?深い訳がおありになるんでしょう?」
「あの、まあ、」

「…ああ、それとも、これ」


書きます?と言って棚の上にいつも置かれている紙をシリウスに差し出した。その紙にはばっちり「離婚届」と書かれてある。まあ、これを出せば大抵は


「本当にすまない!ジェームズたちと盛り上がってしまって…」
「…はい?すまない?」
「、申し訳…ありません」
「ですよね?初めからそう言えばいいんですよ、まったく」
「許してくれるのか!?」


まるでずっと待てをされていた犬がようやく餌にありつけた時みたいに喜んでいるシリウスを横目に、もう一枚、棚の上に置いてある紙をシリウスに差し出した。


「なんだ、これ?」
「私、今まで甘かったんだと思います。シリウスだって遊びたい時だってあるだろうし。我慢してたんです」


そう言った後、


「でも、もう我慢できなくなっちゃいました。だからこれ、罰です。明日から休む暇もなく働けるんですよ!嬉しいですよね?」


そう言い放った後のシリウスの顔から生気を感じられなくなったが、逆に自分の顔は驚く程の笑みを零していた。


「明日から、楽しみですね?旦那様」



…これは明日からの日々が楽しな奥様と明日からの日々に恐怖しか感じることができない旦那様のどこにでもある小さな話。