溶けるアイスみたいに



「暑い、」

久しぶりに帰ってきたのに、なんなんだこの暑さは。蝉が絶えず鳴いているような猛暑。額から流れ落ちる汗がこめかみに到達するのをいらいらしながら何度も拭う。口に頬張ったバニラアイスが何度も何度も棒の先を伝って足元に落ちそうになるから、もっと苛立ちは募るばかりだった。

「くそう…暇だ」

いつもはわいわいと賑わっている陣内家も、今は足音一つ聞こえない。それもそのはず。前当主であった栄おばあちゃんの命日だから。親戚一同、皆お墓参りに行っている。ちなみにもちろん親戚に入る私は、置いていか…いや、自主的に辞退した。…二度寝なんかしてないんだからね!

「あーもうひまひまひま!」
「あれ、名前。いたのか」
「ひゃう!」

いきなり後ろから声が聞こえて思わずくわえていたアイスが足元におちてしまった。しかもこの声、

「おう、お前の大好きな侘助おじさんだぞ」
「帰れ、消えろ、変態」

とっても苦手な侘助おじさん。おじさんといっても、なんだかよく分からないくらい複雑な親戚関係で血の繋がりはかなり薄い。でも…よりにもよってこいつだとは、なんて運がないんだ。おじさんで40歳をこえているはずなのに何故かとっても整った顔をしているこいつがすこぶる苦手で。クールなふりして、実はただの変態なことだってもう熟知済みだ。

「…そんなこといったらおじさん、傷付いちゃう」
「そのまま傷付いて消えてしまえ」
「名前、そんなこといって俺のこと好きなくせに」
「本当に病院に行った方がいい」

というかなんでこいつがいるんだ。今日は命日だろう。なんでこいつがいるんだ。

「…名前が家にいるから?」
「ばか、心を読むな。そしてそんな冗談、金輪際使うな。今すぐお墓参りにいけ」
「そろそろ心折れそうだ、俺」
「…で、ほんとに何でいるの。まさか寝坊、」
「するわけないでしょ。名前じゃないんだから」

なんて地味な反撃を受けつつ、さっきから放置気味であった足に落ちたアイスを指で掬う。汚い、しかもベトベトして気持ち悪い。はやく濡らさなきゃ、なんて思ってると気づかないうちにおじさんが左横に座っていた。

「まだ、…ちょっと向き合えないわけ」
「…おばあちゃん、に?」
「そ」

さっきの調子から打って変わって真面目な顔をしているおじさんに、少しだけ緊張しながらアイスを掬うふりをして話をきいた。

「まだ消化できない…から、まだ皆と一緒に向き合えない」
「お墓参り、行ったことは?」
「…は、ある」
「そっか、」

なんだかいつものおじさんじゃないから、なんて声を掛けてあげればいいのか分からなくて。けど、今…私にできることは

「無理しないでいいよ。おばあちゃんだって分かってる。だっておばあちゃんだもん、」
「…ああ」
「そんな顔で行ったら絶対怒られるよ。おばあちゃん怒ったら怖いから。」
「だよな、」
「うん」

そう答えると左手に暖かい、温もり。それがおじさんの手だと気づくには時間はかからなかった。いつもの私なら、絶対に払いのけてるのに。今のおじさんの手は、振り払っちゃいけない。そんなことを考えてた。

「…名前、ありがと」
「しょうがないから行くときは付いてったげる」
「、ありがと」

今はゆっくり話をしよう。手も握ったげる。…アイスが気持ち悪いけど、横にいてあげるよ。私も、今はおじさんの手の温もりを感じていたいから。


溶けるアイスみたいに




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初夏戦争夢!
侘助おじさんでした。
ヒロインちゃんはかなり年下だとなんかいいな←


100613 エコ