恋が死んだ日



「名前はどう思う?」


この一言は最早幸村の口癖になりつつある。
ただ単に数少ない女友達で幼なじみっていう、端から見たら何とも羨ましいポジションにいるから相談を受けているだけなんだけど、それを嬉しく感じる。頼ってもらえるのが、嬉しい。親しい人にしか話さない悩みを打ち明けてくれるのが、嬉しかった。
だけどそんなのを表情に出すわけにもいかないし、相談の内容自体はちっともいいものじゃなかったから笑うに笑えなかった。


「女子は一体、どうすれば好きになってくれるのだ?」

「…………」


何で相談されるのが私なんだろう。例え幼なじみじゃなくたって、一緒の小学校とか中学校にだって通えなくてもよかった。そんなものがなくたって、わたしは絶対幸村を好きになってたのに。

何で幸村が好きなのは私じゃないんだろう。ずっとずっと一緒にいたのに。小学校だって中学校だってほとんど同じクラスだったし、小さい頃一人で行動できない幸村に佐助の代わりに付き合ってあげたのは私。あの子じゃない。

一体何がいけなかったのかな?
幸村からあの子のことを好きなんだと相談を受けてからもう一年。きっと髪が短いからだと思って、ショートだった髪の毛を胸下まで伸ばした。それでも幸村の目はいつだって、あの子に向いてる。

もしかしたら頭いい子が好きなのかもしれない。そう考えてから苦手だった英語にも力を入れた。頑張ったら振り向いてくれる、そんな考えをずっと信じてた。
参考書を何度も解いて迎えたこの前の模試では学年で十位以内に入った。あんなの初めてだった。あの子は成績振るわず三十位くらい。いつも上位にいた悔しさからか泣いていて、幸村は私におめでとうなんて言わずにただただあの子の背中を擦ってた。


「……どうかしたか?も、もしや熱でも──」


幸村は知らない。
私がどんなに幸村のことを好きだとか、あの子についての恋愛相談をされてどんなに傷ついてるとか。私にはもうどうあがいても勝ち目がないのはわかってて諦め半分なのに、こうやって触れられた途端心臓がうるさいくらい高鳴ることも、期待してしまうことも。


「あ、あごめん。どうしたら、だっけ。デートでも行ってくれば?プレゼントでもあげておけばいいんじゃないかな」

「…………物で釣るなど、」


幸村が顔をしかめた。そりゃあそうだよね、物あげときゃ落ちるみたいな言い方だったもん。
だけど、だけどね幸村。私は幸村のことが好きなんだよ、小さい頃からずっとずっと好きだったんだよ。それなのに幸村は他の女の子のことを相談しにくるなんてひどいこと、平気でやってるじゃん。鈍いのは、罪だよ。


「名前も早く好きな人を見つけるといい。そうしたら俺の気持ちもわかるだろう」

「……もし、私に好きな人いるって言ったら応援してくれる?」

「勿論だ!」

「……………そっか」


わかってた。どういう質問をしたらどういう答えが返ってくるかなんて理解してて、最後の賭けだったから。
もういい、もうだめなんだ。諦めなくちゃいけない。幸村は私が幸村を好きになることなんてあり得ないと思ってるんだから。

にっこりといつものように笑う幸村と同じように笑ったつもりだったのに、思うように顔が動かなかった。








恋が死んだ日


‐‐‐‐‐‐‐
相互のI miss you.のみなみさまより!企画にリクエストさせていただきました。ありがとうございました!これからもよろしくお願いします。



- ナノ -