不正解


吏佐
だけど暗い。幸せでない。

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互い違いに絡めた指の一本一本から体温が伝わって、ああ、この手が永遠に解けなければ幸せなのにと馬鹿げたことを思う。口に出してはならない。俺の想いは、そしてお前の想いも間違っているのだと、全身が思い知っている。


「久しぶりっスね公園デート。あ、サッカーしてるこどもがいる。」


なのにお前はめちゃくちゃだ。こうやって手を繋いでくるし、キスだってする。人前で。これはおかしいことで、許されざることで、認められるはずのない感情だというのに。
言うなれば犯罪と似ている。当事者は隠匿に執心し、人々は皆それを忌避する。いずれ俺達には罰が下るのかも知れない。


「佐治さんは臆病っスね」


吏人が俺の髪を梳く。繋いだ左手の反対で。駄目だ、やめろと言うのは俺の外側でしかなくて、真ん中の部分では手の温もりも優しい笑みも心地好くて仕方がない。それでもやっぱりいけないと思ってしまうのは、世界の目線は凶器となって、俺だけじゃなくお前の内側も攻撃してくるから。なのにお前の中心は酷く無防備なままで、だから俺はお前の分まで防御壁を張らなければならないんだ。お前が無抵抗に傷つく姿など見たくない。どうしたって分かってはくれないけれど、お前は。


「…ねぇ、佐治さんこっち向いて?」


その瞳に捕らえられたら最後、逸らせないことを俺は知っている。絶対に向くものか。夕日に染まった公園にはまだ人がいる。すでに好奇の目を向けてきている者もいるのに、駄目だ。

右手にぐっと力が入る。吏人はそれを握り返すことはせず、ベンチから立ち上がった。思わず右手の力が抜けて、吏人の左がするりと逃げる。


「やっぱりキツいッスか」


だいぶ低くなってきたオレンジ色の陽光。吏人の顔には影が落ちて、その表情は確認できない。


「あぁ」


短く答えたそれは確かに自分の声だった。内側の慟哭に掻き消されそうなくらいに小さな声。


「…そッスか」


やはり表情は窺えないが、彼は自嘲を湛えた声をして。

慟哭はついに断末魔に変わる。外側の俺だけが妙に冷静で、吏人がすぅと息を吸った音が聞こえた。彼は何を言うのだろう。そんなことさえ考える余裕を、俺は心底不要に感じる。




「これが、正解なんですよね」




一歩、俺と吏人の距離が開く。彼の表情は相変わらず解らないままに、吏人は俺に背を向けた。そして歩いていく。俺と吏人の距離が開いて、いく。今は長い影だけが俺と吏人を繋いでいる。
やがて影も俺から離れた。ぷつり。こんな安直な例えは笑われるだろうか。影と共に気持ちも離れたと。茜色の時間は短くて、気づけば周りは影に囲まれたかのように薄暗い。



俺に背を向けるその一瞬、吏人の横顔が見えた。瞼の裏に焼き付いてしまったようなので目を閉じてみるも、同時に零れたものが焦点をずらす。

その表情が笑っているのか泣いているのか、俺には判別できなかった。


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そこそこ暗い^^
日本語勉強したいです





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