某日サッカーノート


ある朝の及川くん。
CP要素無しです。

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僕、及川塁次の毎朝の日課。
自分の朝練に行く前に、近隣のサッカー強豪校の朝練を偵察して回る。各校の朝練開始時間の関係で効率良く回ることが出来ず、約40Kmの距離を走ることになる。前は自己満足でしかないようなものだったこの日課だが、スタミナの更なる強化を目指す今ではトレーニングのひとつとなっている。





まずは1校目、私立帝条高校。しかし今朝の朝練はどうやらオフのようで、グラウンドには人影が少ない。よく見るとその中には自主練をする大宮さんと藤原くんがいた。ふと、彼らも僕に気づく。大宮さんには少し…いや、盛大に絡まれ、この度は多大なご足労の末我が校にお越し下さったにも関わらずお目当ての練習を実施しておらず誠にどうのこうのといつか見た土下寝を披露する藤原くんにはこちらまで腰が低くなる。

藤原くんがどうしてもと言うのでスポーツドリンクを1本いただいて(100本差し入れは今回さすがに遠慮しておいた)、次の学校へ向かう。





「おや、スモールボーイ君じゃないかい?」
「え…あ、万玖波さん!」

環商業校門前、ふぅ、と呼吸を整えていたところで声を掛けられる。振り向けば、濃紫が朝日にまばゆく照らされ目に優しくない。

「今日もうちのチームを偵察しに来てくれたのかい?光栄だなぁ!」
「えっ…は、はい…って、万玖波さんは練習に参加しなくていいんですか?」
「私はちょうど今ランニングから帰還したところさ!サボっていると思わせてしまったかな?」

そんなわけないだろう、何せ私は冒険者だからね!そう言いながら肩を組んでくる万玖波さん。朝からこのテンションなのは、皮肉ではなく正直に凄いと思う。低血圧気味の僕にとっては羨ましい。…いや、決して万玖波さん級のハイテンションになりたいわけではないが(僕が「冒険してるかい?」なんて言ったら蘭原さんに頭をテーピングされそうだ)、何か元気の秘訣でもあるのだろうか。

「私の冒険心の秘訣かい?そうだねぇ…」
「いや、冒険心と言いますか何と言いますか…。万玖波さんは僕の尊敬する選手の一人ですから、少しでも参考にできることがあればと思うんです。」
「ははっ、嬉しいことを言ってくれるなぁ!それに、偵察と言いながらその堂々たる態度…君の冒険心に敬意を表して、私も敵に塩を贈るとしよう!」

確かに偵察にしては随分はっきりと質問してしまった気もする…。しかしそのお陰で万玖波さんが毎朝行うというストレッチを教えてくれた。血流を促す効果があるそうだ。その上、さすがに全てとはいかないが、なんと環商業の朝練の様子を詳細に説明してくれると言う。なるほどこれはこういう効果を狙った練習なのか、うちでも取り入れるべきだな、吏人君に提案してみようなんて考えながら、様々に工夫された練習方法をメモさせてもらう。

ちょうどパス練について説明を受けている時だった。ジャージのポケットが電子音と共に震えたので慌てて万玖波さんに断り通話ボタンを押すと、携帯電話が叫んだ。


『及川ァ!!てめぇ今どこにいやがる朝練サボりやがって馬鹿野郎!!』
「えっ…あ、時間!」

腕時計は市帝サッカー部の朝練終了時間を示していた。おい聞いてんのかボケコラと悪態をつく佐治さんの後ろで、倉橋さんだろうか、佐治よーあんまり心配すんなって、という声が聞こえる。

『バッカ誰が心配してるっつーんだよ倉橋てめぇ!!』

佐治さんが携帯を持ったまま怒鳴るものだから、まるで僕が怒鳴られたようだった。耳が痛い…。部室から電話しているのか、『及川が朝練いねぇなんて珍しいよなー体調悪ぃんじゃね?まさか誘拐されたとか』なんてざわめきが聞き取れる。しかし誘拐って。

「あの、すみません!時計見るの忘れてました!」
『…ったく、まぁお前はいつも真面目だからな、今回は大目に見てやる。ただし、今日の放課後の部活には早めに来て準備しろ!いいな!』

外野が『佐治やっさしーい』なんて茶化すものだから、『うっせー黙れ!!』と再び僕が怒鳴られる。佐治さんは通話中だということを忘れているのだろうか。

『ところで及川、お前今どこにいんの?』
「環商です。」
『…HR間に合わなくね?』
「…あ。」





丁重にかつ急いで万玖波に礼を言い、及川は市立帝条へと走っていく。それを見ながら、万玖波は自らに笑みを禁じ得なかった。

「あ、こんなところにいたんですか万玖波さん、朝練終わりますよ。」
「ああ、真っちゃん。君は実に幸運だね。あの素晴らしい冒険者たちとまだまだ冒険できるんだ。羨ましい限りだよ。」
「?何の話ですか?」
「何でもないさ。さて、ミーティングに行こうか。」


「メイジーそろそろ自主練切り上げようぜー!」
「鳴路です。僕はもう片付け終わりましたので先輩あとはよろしくお願いします。」
「えっ早っ!?」


「吏人、教室行ったら及川がちゃんと着いたか確認しろよ。」
「オレと及川クラス違いますよ?」
「あ?見に行きゃいいだろが!」
「佐治は心配性だなー」
「ちげーっつってんだろがボケ!!」


チャイムが鳴り、『選手』たちが皆一様に『生徒』に変わる。及川塁次だけがまだ、ジャージ姿で疾走していた。



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誰か私に締め方を教えて下さい←

及川可愛い私帝コンビ可愛いマクバさん冒険者佐治さんツンデレ市帝可愛いみんな可愛い。
ごめんね及川くん、残り2校は回れなかったよ。あと佐治さんは絶対仲間想いだ。





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